その翌日、警視庁組織レイバー犯罪対策室にまたも珍しい人物が訪れていた。 「すいません、わざわざ土曜日だというのにお呼びだてしてしまって」 篠原遊馬はかつての上司の職場を訪ねるのは初めてだった。 「で、簡単に言うと?」 遊馬の手渡したファイルをぱらぱらとめくっただけで、後藤は説明を促した。 「隊長!きちんと読んで下さいよ。このファイルは発表会終了後、うちのシステム担当者を夜中呼び出して そこまで説明して遊馬は説明を止めた。 「それより篠原、アレグロ社との提携交渉、難航してるんだって?」 まるで隠していた赤点のテストを親に見つけられた気分だ。 「んなの、日経読んでりゃ誰でも知ってるって」 後藤の言葉に素直に項垂れてしまう。 「でも、なんとか来週の月曜には調印式典を兼ねてこっちも新作のお披露目ができそうですよ。 後藤は『一番弟子』の成長に相好を崩した。 「そう、それならよかった。こっちもしのぶさんからせっつかれてたんだよ、新型レイバーはまだ来ないのかって」 |
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後藤多喜は空腹で目が醒めた。昨夜は結局何も口にせず寝てしまった。 向かった先は湾岸地区のショッピングモール、土曜日ともあって、モールの外も中も買い物客であふれていた。 巨大なガラス張りの窓から外を眺めながら、多喜はこの人込みが全て消えてしまったらと考えた。 さて、これからどうしようか。 |
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ここのモールの1階には国内最大級のゲームアーケードがある。 「お嬢ちゃん、名前なんていうん?」 日本語、それも関西イントネーションだ。そのヴィジュアルと言葉の取り合わせにしばし呆然とする。 「しのはら・・・かなん」 その名に心当たりがあるようだった。 「お兄ちゃんは?」 そう彼は少年のように笑った。 数分後、二人は人込みから離れたベンチに座っていた。 「ほい、花南ちゃん」 「あ、ありがとう」 そう言って彼はもう片方の手に持ったコーラをあおった。 「でもさっきの、バドお兄ちゃんの操作、すごかったよ。 花南は真っすぐな眼で彼を見つめる。そのバドは遠くを――窓越しに見える東京湾を見ていた。 「僕が花南ちゃんくらいのころはゲームばっかやってたもんなぁ」 そう言ってバドは微笑んだ。 「なれへんかったかもしれん、立派な大人に。ゲームばっかやってたから、お兄ちゃんなぁ、ゲーム取り上げられてしもてん。んでなぁ、強制退去処分や」 サクセスストーリーに聞き入る花南の眼は輝いてた。 「だけどな、奨学金くれたんはシャフトUSAなんや。 最後のつぶやきはもはや花南に向けられたものじゃなかった。 「ところで花南ちゃんはよくここに来るん?」 「ううん、今日はここに来いって手紙もらったんだけど」 「篠原花南ちゃんだね」 とっさにバドは花南を後ろにかばった。 「バドかい、久しぶりだね。僕は花南さんに用があるんだ」 黒崎、と呼ばれた男は強引に彼女の手を掴むと、追いすがるバドを払いのけた。 「Kidnap!誘拐や!」 しかし客たちはその声に耳を傾けながらも遠巻きに見詰まるだけだった。 彼は――多喜はなぜ自分がとっさにあんな行動を取ったのか理解できなかった。 自動改札を飛び越え、来た電車に飛び乗る。 「おい、一体どうしたんだよ。なんで誘拐なんか・・・」 上がりきった息の奥から答えた。 |
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