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vol. 1 背中合わせのShadows&Lights
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ぐぉんぐぉん、銅鑼(どら)のような音がする。いや、銅鑼のわけがない。 昨夜ちっと飲みすぎたか?とうっすら目を開けると、そこには見覚えのない天井があった。 で、一体どこから帰ってきたんだ?そして、ここは一体どこなんだ!? ゆっくり上体を起こすと、大きく伸びをする。 「初日っから遅刻する気か?このバカが」 「こっちはなぁ、引っ越してきて早々研修だってって禅寺でみっちり1週間しごかれてきて、 そうだ、オレはこの4月から特殊事態対策室に出向することになったんだ。 「朝飯できてるぞ。冷めるから早く降りてこい」 そうだ、こいつはいっつもこう一言多いヤツだった。 |
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コイツ、佐野秀基と初めて会ったのはまだ先月のこと、場所も同じこの部屋だった。
「お前さんの配属される新部署ってのは、基本的に職住近接が条件だからね。 オレはその日、土御門室長に連れられて対策室から程近い神田のとあるマンションにやってきた。 「あ、佐野、こっちが今度4月っからウチに新しく来ることになった相馬将泰皇宮巡査」 そして、期待のルーキー、と付け加えた。 「お前んち確か1部屋空いてたろ。コイツのこと置いてやってくれんかなぁ」 「相馬、こっちが4月からお前と一緒に働くことになる佐野秀基だ」 オレと同じ21歳。都内の私立大学に通う傍ら、非常勤嘱託(つまりほとんどバイト)として 「相馬君は皇宮警察の警護官で、こっちの業界のことはまったくの素人だ。 出された茶を手で軽く謝意を表すと、そのまま断りもせずに一気にすする。 「じゃあ、引越しとかの相談もあるだろうから後は二人で話し合っとくれ。 初対面の、しかも無口で目つきの悪い男の部屋に独り取り残されてしまった。 「ずいぶん、勝手な人ですよね」 話を振ってみる。 「あ、あのー」 佐野が初めて口を開いた。 「お前、なんか力あるのか?」 んなもんあるわきゃないだろ!こっちはただの地方公務員だっつーの。 「んじゃ、霊感はあるのか?」 そういうものは今まではっきり見たこともなければ感じたこともねぇッ。 「じゃあなんかそれ以外の特殊技能は!?」 ただの公務員だ、そんなものあるはずがない。そう答えると、フッとほくそ笑んだ。 「あの土御門もとうとうヤキが回ったかぁ」 どこか勝ち誇ったかのような笑みだったが、それはまるでつかの間の勝利であるかのようにも見えた。 |
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「おい、顔に飯でもついてるのか?」
今目の前で飯を食ってる佐野とは別人だった。 「家事は分担制だからな。ということで明日の朝飯はお前が作れ」 そんなことを突然言われたってムリだ。 「パンでも・・・いいかな?」 何も言わなかった。とりあえず消極的な賛成と受け取っておこう。 |
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あの後、佐野はもう一つ質問した。 「お前、霊の存在は信じるか?」 とっさには答えられなかった。 「いいか、こればっかは甘っちょろい考えだったら痛い目に合う。 そのとき、彼の顔からは冷笑の余裕は消えていた。 |
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朝食の食器を食洗機に放り込むと、身支度を整える。しかし、
「うーむ」 「入るぞ」 でもここがお前の持ち家ってわけじゃないんだろ?と言い返してやりたかったが、 「お前、ほんっと似合わねぇな」 オレのスーツ姿を見て、こいつはそう言った。 「うちはそんなにドレスコードきつくないから、ジーパンで行ったほうがましなんじゃないか」 かく言うヤツの格好は、白×黒のタッターソールのシャツにぴしっとプレスの利いたチノパン、 しかし、とオレは思いとどまる。 「オレもそうした方がいいかと思ってたんだよっ」 強がりと笑わば笑え。笑うアイツの顔には『ガキ』と思いっきり書いてある。 「それと俺先出るから、戸締りしてけよ」 なんだよ、初出勤に付いてくぐらいしてくれねぇのかよ。 「今日は学校。んじゃな」 そして、行ってきますも無しにばたむと玄関のドアが閉まった。 |
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