あのとき、遅くまで父の帰りを待っていた少年は、父によく似た聡明かつ穏和で正義感にあふれた青年へと成長していた。
「その親子はその後――」 槇村の問いに総監は静かに首を振った。 「槇村も、そして私も二人の行方を懸命に捜したが、結局見つけられなかった」 せめて遠くで、誰も白井の事件を知らないほど遠くでひっそりと、だが幸福に暮らしていれば・・・そう祈るしかなかった。 「もしかしたら槇村が――君の父上が殺人犯の、確か・・・久石といったな、 白井の妻の言葉が槇村の胸に深く突き刺さっていたに違いない。 「昔、遠くからだったが一度見たことがある。 そして総監は机の上に置かれた警察手帳を槇村の手に握らせた。 「だから、この約束だけは守らせてくれ。槇村の息子が警察官になったなら、私が後ろ盾になるとの」 彼は槇村の両手を力強く包むと、満足そうにその手を引いた。 そう言うと総監は槇村の肩をぽんと叩いた。 「本来ならもう一つの約束も守ってやりたいところだが、こればかりは本人の心次第だからな」 後に残されたのはそのもう一つの約束の二人だけだった。 「槇村はどう考えているの?」 返事がぎこちない。 「何考えてるのよ!ふっ、復職の方よっ!」 刑事という仕事に未練は無かった。あの失敗が無くとも法の枠内でしか動けない組織に限界を感じていた。 だが今は冴子の側にいてやりたかった。シンセミーリャの一件で彼女の意外な弱さを目の当たりにしてしまってから 「ねえ槇村、もしよかったらあなたの人生の半分、わたしに背負わせてほしいの」 そう言ったまま冴子は窓の外遠くを眺めていた。 「自分独りが奇麗なままで取り残されるなんてもうたくさん!あなたとだったら地獄にでも堕ちていける」 そして槇村の胸へと飛び込んだ。 ――彼女はそれだけの覚悟を固めていた。だが、自分はどうだろうか? 最愛の女性の温もりを感じながら、槇村は自分に問いかけていた。 もし復職が叶ったとしても、これから彼を待ち受けているのは決して平穏な刑事人生ではないと覚悟はしていた。 「7年前に言おうと思ってたのに、先を越されちまったな」 そう言うと槇村は彼女を抱く腕の力を強めた。 |
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数日後の警視庁の部長会議で槇村秀幸巡査部長の復職と特別昇進が了承された。 そしてそれを花道に、野上警視総監は残りわずかな任期を残して退任した。 |
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ようやくこれで槇村×冴子の決着が最終的に付けられました。 さあ、あと残すは撩×香だ! ということで、全くCHとはいえない駄文でしたが ご愛読ありがとうございましたm(_ _)m |