気がついていた、自分だけが他人と違うことに。

赤い髪に赤い目、それを際立たせるかのように
思春期以降すくすくと伸び始めた背丈。
両親はすでに亡く、兄と二人暮らし。

それでも『普通の子供』と同じように学校に通い
放課後は遊び、テレビのアイドルにうつつを抜かした。
いつかはみんなと同じように、普通に上の学校に進み
普通に働いて、普通に恋をして普通に結婚すると思っていた。
――どこかで、そんな『普通』に違和感を覚えながら。

どこかで、何かあたしの思いもよらないものが待っているような予感。
それが具体的にどんな未来なのか
まだ子供のあたしには想像もできなかったけど。

だから、戸籍抄本に「養女」の文字を見つけたときは
驚きと同時に「ああ、やっぱり」という感情を抱かざるを得なかった。

高校の入学手続きの必要書類。
普通だったら一から十まで親がしてくれるものを
あたしにはその親はいなかった。
親代わりのアニキにとって、3月は忙しい時期だったから
気を使って「自分でやる」と言ってしまった。
後悔した。大人しくアニキの言うとおり、全部任せてしまえばよかったのに。

だけどそれで、あたしの中に幼いころからくすぶっていた違和感に
すとんと総て納得がいった気がした。
まるでパズルの最後のピースが見つかったかのように。
あたしはやっぱり普通の女の子じゃなかったのだから。

だけど、周囲の眼に映るあたしは未だ
髪の赤い、背の高い、どこにでもいるような女の子にすぎなかった。
それはアニキの眼を通してでも。
あたしは、そんな視線に応えるように
普通の女の子を演じ続けた。
演じれば演じるほど深まっていく溝――
本当のあたしはみんなの知っている槇村香じゃない、
いや、「槇村香」ですらなかったのだ。
でもそれを誰にも告げることはできなかった。
大切なことのはずなのに、心を許した友にすら言うことができない
たとえたった一人の兄であっても。

誰かに打ち明けたかった、この秘密を。
誰かと分かち合いたかった。

そんなときに現れたのが、アニキの相棒だという男
シティーハンター、冴羽 撩。
なんで彼に秘密を打ち明けたのか、理由は今でも判らない。
たとえ兄の相棒とはいえ
もう二度と逢うことはないと思ったからだろうか。
互いに知りすぎた間柄よりも、見ず知らずの他人の方が
総てをさらけ出せる、ということもあるのかもしれない。
だけど、一つ言えるのは
あたしにとってその日から、撩は世界一近しい存在になった。
世界でたった一人、秘密を共有する相手として。

きっと撩は、今も後悔し続けているだろう
「普通の女の子」だったあたしを
こんな世界に引きずり込んでしまったことを。
でも、あたしはちっとも後悔していない。
むしろ、この道こそあたしの進むべき道だったと思っている。
あのまま普通の仕事を見つけて、普通に恋をして、普通に結婚していたら
きっと自分の中の何かにふたをし続けたまま
生きなければならなかったのだから。
あのとき幼すぎてはっきりと見えなかったものが、今なら見える。
それは今、目の前に広がる現在であり、その先にある未来なのだと。


――Odd Girl Out


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