一瞬、撃鉄を起こす音が聞こえた。 そんなバカな、ここは機内だ。とは言うものの、かく言うオレもジャケットの下にデザートイーグルを隠し持っている。 そのとき気づいた。撃鉄の音を“聞いた”のではなく“感じた”ことを。発せられる殺気。 「Death...for the traitor(裏切り者には死を)」 南米系と思しき男、手には――リモコンスイッチ。 「It’s ...the rule of “union”(それがユニオンの掟)…」 こめかみを射抜かれてもなお男はスイッチを押した。 成田を発ったばかりのLA行きは太平洋上で真っ二つとなった。 乗客の半分は日本人、もう半分はアメリカ人のようだったがオレの耳に入ってきたのは聞き慣れたswearingだった。 Gosh! D-n! Jesus H. Christ! 「妄りに神の名を唱えることなかれ」と言ったモーゼが見たら思わず‘Oh my god!’と叫んでしまうような光景だろう。 ―Mercy on us! We split, we split! Farewell, my wife and children! |
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「うん、美しい・・・素晴らしい花火だよ。ショータイムの幕開けにふさわしい」 美しい飛行機が粉々に砕けた。その瞬間船内のいたるところから歓声が沸き起こった。 |
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Count Down to Denouement |
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vol. 1 quiet before tempest |
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――目を開ける。どこかの倉庫のような、殺風景な光景。 「気がついたかね、ミック・エンジェル君。といってもここは天国じゃないがね」 白衣の男――顎のとがった痩せぎすの男が声をかけた。 「・・・あ・・・うぅ・・・」 声が聞こえる。獣の唸り声のような。――オレの声か? 「君はラッキーだ、あの惨劇から助かったのだからね。恐らく君だけだろう。 その中で一人の男がオレの眼を惹いた。 二度目に目を開けると、見覚えのある天井があった。 |
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――泣き出しそうな空、か。 今日の空は恐ろしいほど7年前を思い出させた。 「よく言ったもんだぜ」 まるで香のようだった。 「こんなところにいたの?せめてパートナーの傍にいてあげなさいよ、せっかくの誕生日なんだし。 おどけた口ぶりで煙草に火をつける。 「27歳か・・・早いものね、あの時まだ20歳だった香さんがもう27よ。もうそんなに経つのね」 7年、それは行方不明者の関係者にとって大きな意味を持つ数字だ。 「そしてここも取り壊される――彼が消息をたったシルキィクラブも」 その言葉に、地面に置こうと思った煙草のケースをポケットにしまいなおす。 「わたしは槇村を死なせたりはしない。彼はまだ生きてるわ」 真っすぐな眼で冴子は言い切った。 |
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1985年3月31日、槇村秀幸はシルキィクラブで消息を絶つ。 |
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「槇村は生きている!」と言いつつ、失踪させてます。 |