silent night, noisy night |
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バーン、ズガーンと周りの風景におおよそそぐわない音がビルの谷間に響いた。銃声はバタバタとした足音と切れ気味の息とともに遠ざかりつつある。
「畜生、どこ行きやがった!」 撩の自棄交じりの叫びめがけて銃弾が飛んでくる。とっさにそれをかわすが弾丸はオブジェの一つに突き刺さる。発射地点に目を遣ってもすでに敵はそこから走り去っていた。それに、この状況下で視覚は大して役に立ちそうにない。クリスマス・イヴの真夜中、頼りはイルミネーションのほのかな明かりだけなのだから。 「あの野郎、弁償費用は奴持ちだからな」 イルミネーションというのは周囲を煌々と真昼のように照らすためのものではない。夜の闇を背景として、光を際立たせるもの。広場を埋め尽くす光の洪水も敵の姿を映し出すことはない。むしろその光が足元の闇をより深くさせていた。 イルミネーションの闇の中、敵はどこに潜んでいるのだろうか。時折黒い影がクリスマスツリーや天使の像を横切るが、次の瞬間にはまた元のように光を放っている。そして、その小さな光に紛れてマズルフラッシュの火花が散る。 「むしろ中途半端に明るい方が問題なんだよな」 華やかな電飾を忌々しそうに見上げながら撩が呟いた。 「全くの暗闇ならそれはそれで方法がある。視覚をシャットアウトして聴覚、嗅覚、そしてかすかな皮膚感覚に神経を集中させればいい。だがこう見えそで見えないとかえって躍起になって目で見ようとしてしまう。何だかんだ言って人間は視覚的動物だからな」 ま、つまりチラリズムの方が男としてはそそるものがあるわけだ、と訳のわからない結論をつける。 「撩っ」 掌であたしの口を覆う。 「リョオっ!」 あたしを抱えて撩が飛ぶ。銃弾はさっきまであたしたちが潜んでいた足元にめり込んでいた。ツリーの足元の花壇の陰に隠れた。灯台下暗し、というが、 「ノクトビジョンかよ、卑怯だぞっ」 確かにこの程度の灯りなら暗視装置がハレーションを起こすことはない。そこまでも計算済みでこの庭園に逃げ込んだというのか――。この距離からだと銃口の火花もダイオードの光と見分けがつかない。 「香、今何時だ」 ルミノックスの長針が間もなく短針に重なろうとしていた。 「もうすぐクリスマス本番」 ようやく目が闇に慣れてきた。横で撩がにやりと笑うのが見てとれた。そして、視線を時計に移す。 次の瞬間、イルミネーションが一瞬で消えた。そして撩があたしの手首を引いて物影から踊り出た。ノクトビジョンの視界に映る、半ば自殺行為だ。でも―― ドゥゥーーーン 完全な闇の中、マズルフラッシュの赤い火花がぱっと咲いた。頬に掠りながらも銃弾をよけると、火花めがけて銃爪を引いた。遠くで悲鳴、そして何かが倒れる音が静寂の広場に響いた。
「西口のイルミネーション、見たいって言ってただろ?」 銃を持った男との命がけの鬼ごっこなんて状況では、いくら綺麗なイルミネーションでも心から綺麗とは思えない。 「それに、もう終わっちゃったし・・・」 冬は空気が澄んでいて、一年の間で最も星が綺麗な季節だという。 「ほら、こっちがプロキオンであれがリゲル、冬の大三角」 次第に近づきつつあるサイレンの音。地上は回転灯の赤い光に照らされていた。あとはクリスマスだというのに深夜勤務の冴子さんに男を引き渡して、今夜の任務完了だ。 「なぁ香」 寒さに身を寄せ合うようにごく自然にあたしの肩を抱き寄せた。イヴだというのに銃撃戦に駆り出されたあたしたち、イルミネーションに主役を奪われた冬の星座。どちらも季節に見捨てられたもの同士。 クリスマスだというのにウチの二人はお仕事です、銃撃戦です。 Merry Christmas! background by 写真素材ドットコム
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