silent night, noisy, noisy night |
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大捕り物が終わった頃にはもうイヴからクリスマス本番になっていた。 24日はCat'sでパーティだというところを無理やりあの二人にも付き合わせてしまったが、銃声が止み、私たちが犯人を引っ捕らたあとは身を寄せ合って星なんか見上げて、すっかり二人の世界だった。悪いことしたかなと思ったど、結局心配して損したような。 スイーパーの仕事はこれで終わりだけど、私たち警察はこれからが忙しい。報告書や取調べは明日やるにせよ、留置場に犯人をぶち込むだけでも煩雑な手続きが必要になる。捕り物よりは格段にモチベーションの落ちるデスクワークが総て終わった頃には、サンタクロースも家路についたことだろう。 クリスマスの夜、それでなくても新宿はまだまだ宵の口。だが、マンションに近づくにつれて、今が本来どのような時間なのか思い知らされる。冷えきったような静けさ、周囲で灯が点っているのは道端の街灯くらい。しかし、見上げれば目の前のマンションの一室に灯りがともっていた。 (あれってうち・・・じゃないわよねぇ。ちゃんと消してきたはずだけど) さっきまで疲労困憊していた体にさっと緊張感が走る。エレベーターから降りると自室の前まで足音を殺して近づく。ドアの向こうには明らかに人の気配。スカートの下のナイフに手を沿わせた。 「誰っ!?中にいるのは!」 奥のリビングから聞こえてきたのは緊張感に水を指すような声だった。 「麗香…それに唯香」 テーブルの上にはボトルとチーズやらクラッカーやらの包みが散乱していた。その中には、色気のないクリスマス、せめて当日は一人で優雅に空けようと思っていたとっておきのシャンパンも空になって転がっていた。 「あーあ、わたしのヴーヴクリコ…」 当然、麗香はすっかり出来上がっていた。そして唯香の顔もほんのり色づいていた。 「麗香、警察官の家で未成年に酒飲ませていいと思ってるの?」 ほんの一口だけで呂律が回らなくなるなんて、私も麗香も酒には強い方だけど、この子は鍛えてもダメかしら、ってそういう問題じゃない。 「唯香、クリスマスはお父様たちと家でパーティでしょ」 ということは、もし私があの二人に仕事を依頼しなければ、この惨状は無かったというわけか。それでも、いくら実の姉妹とはいえ、勝手に人の留守宅で酒盛りなんて…。 「あ…それズブロッカ…」 ウォツカだろうがテキーラだろうがこの際構うもんですか。グラス一杯を一気に飲み干すと、急に胸の中から吐き出さずにはいられないもやもやがこみ上げてきた。 「クリスマスだっていうのになんでわたしばっかりこんな目に合わなきゃならないのよ!大体撩と香さんだって、イヴだっていうのに仕事押しつけて、そりゃ悪いと思ったわよ。でも仕事終わったらすっかり二人の世界で、逆にわたしあの二人のためにお膳立てしちゃったわけ?すっかり見せつけられちゃったじゃない。 一気にまくし立てるとグラスにワインが満たされた。注いでくれたのは唯香だった。 「お姉ちゃん今夜もお仕事、そして今年一年お疲れさまでした。 見れば手にしたボトルは正月用のヴィンテージもの。でもそれをとやかく言うつもりはもうない。 「お姉ちゃんの活躍があるからこそ、『警視庁の雌豹』のアイデアが思い浮かぶんだし」 助かってるって、警察の内部資料横流ししてもらってるってだけじゃない。それに唯香の場合は思いつくというより事実をそのまま小説にしてるだけなのだから。 「それだったら麗香、今度はわたしの仕事の方にも協力してもらえるわよねぇ。 年がら年中迷惑かけて、心配かけて、家族でなかったらこんな知り合い、とっくの昔に縁を切っているところ。それでも許して、諦めてしまうのはやっぱり家族だからだろうか。 「よーし、今夜はとことん飲むわよーっ!」 そういえば明日からは取り調べ本番だ。でもこのペースだと翌朝は二日酔いで欠勤するのが落ちだ。でも、ロマンチックの欠片もない、男っ気のない三姉妹で飲んで騒いで過ごすのも私たちらしいクリスマスなのかもしれない。 『silent night, noisy night』のその後、深夜までお仕事の冴子姐さんに愛の手を。 Merry Christmas!
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