Promise |
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未だほとぼりが冷めぬ中、行為後の独特の湿気が篭る俺の部屋。 ベッドサイドのランプは消えて、闇と静寂が辺りを包み込んでいた。 さっきまで息を荒げていた香は、俺の腕の中ですっかり落ち着き、 今では穏やかに寝息を立てている。 自然とその細い身体を抱く腕に力が篭った。 今まで俺が生きてきた中で、手元に置いた女は何人かいた。 だが、それもほんの僅かな時だけ。 ある女は逃げて行き、ある女は自らの意思で去り、 俺が突き放したある女は、俺を追いかける事もせずに消えていった。 いくら俺と言えど、少しでも情を感じた女が去っていくのは辛いことだった。 そして、そうやって心が血を流す度に、臆病風に吹かれる自分が居た。 ましてや俺は裏の世界の人間。 誰かを一人守りながら生きる事は並大抵のことではないと解りきっていた。 そんな俺はいつの間にか恋愛ごっこに疲れ、 身体だけの軽い関係を楽しむようになっていた。 誰でも良かった。 それでよかった。 こいつに出逢うまでは。 こいつだけはどこか違ったんだ。 逃げることもせず、自らの意思で去ることもせず、 俺がどんなに突き放しても俺を追いかけて来て・・・。 いつでもありのままの俺を受け入れてくれた。 表とか裏とか関係なく。 そんな女は初めてだった。 そして。 生まれて初めて。 失くしたくないと。 こいつだけは失くしたくないと。 そう思った。 この胸いっぱいに香を抱きしめてみる。 この両手では掬いきれなくて零れるほどの愛しい想いは、 俺に生きる勇気と戦う気力をくれた。 どんなに辛くたって、こいつを離さない。 どんな壁でも乗り越えてみせる。 俺は・・・もう負けない。 俺たちを邪魔する全てのものを叩き潰してみせる。 俺の腕の中で香が身じろぎをする。 少しだけ腕の力を緩めてやると、 香はまた落ち着く場所を探して身体を揺らし、再び俺の胸に頭を預けた。 俺の左胸に当てられた小さな手。 そっとその手に自分の左手を重ねた。 胸と掌に感じる、俺より少し低い体温。 それが、香。 今は冷えているこの手は俺にたくさんの温もりを与えてくれる。 これから行く道がどんなに過酷なサバイバルゲームになろうとも。 この温もりさえあれば俺は何も怖くない。戦える。 俺が呼吸するたびに、胸に香の睫が触れる。 今は静かに閉じられている香の瞳。 先ほどまでは身体を重ねて、心を重ねて、熱く俺を見つめていた。 この瞳が少し潤みながら俺を見つめると、 息苦しくなってどうしようもなく俺の胸を震わせる。 いつもはどうしても素直になりきれない俺も、 ただただ真っ直ぐに香だけを見つめることができるんだ。 癖のある髪を撫でながら、そっと耳元に口を寄せた。 「もう泣かせないから・・・な。」 呆れるぐらいのくだらない事でケンカしても。 時にはすれ違っても。 独りきりで生きるよりはまだいいよな。 笑顔も涙も半分ずつ二人で分け合っていこう。 そして、肩をならべて歩いていこう。 俺たちのペースでいいんだから・・・さ。 End featuring 「もう負けないよ」 By TUBE Only Good Times』の輝海さまがフリーテキストを公開されたので
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