香が今日届いた封筒の中の書類をじっと睨みつけていた。
そしてときどき、俺の方にも睨むような視線を送る。
封筒の差出人は新宿区役所、
といっても税金の督促ではない。
(これでも一応、確定申告はしてるんだぜ)
すると香は、ため息を一つついて
「12000円かぁ」
と呟いた。さっきから同じ台詞をだ。
¥12,000、定額給付金とかいうやつの額だ。
昨年からやるのやらないの、いつになるのと
揉めに揉めつづけてきたのがようやく配られるらしい。
ウチでは香の分の12,000円と
18歳未満のチビの分の20,000円、〆て¥32,000也。
もちろん戸籍も国籍もない俺の分はカウントされていない。
おい、だからってさっきからジト眼で俺を見るなって。
今でも決して楽ではない冴羽商事の財政状態において
12,000円の収入というのは決して少なくない額なのだが。
しかし、許せ香。俺にはお上のお恵みに与る資格は無いんだ。
こんな苦労は今に始まったわけじゃない。
これだけ長く一緒にいても、きちんと籍を入れてやれず
生まれてきた子供は私生児扱いだ。
その他いろいろ、数え上げたらきりがない。
そんな苦労をするくらいだったら
ちゃんとしたまともな戸籍を持つヤツと結婚すればよかったのに。
「そんな問題じゃないわよ」
俺の心中を察したように香が言った、ジト眼のままで。
「そのくらいのことは覚悟の上で一緒になったんだし。
それに12000円なんて安いものよね、
あんたがまじめに働いてくれさえすれば」
うわっ、ヤブヘビ【泣】
|