the once again first episode |
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僚は新宿の人込みで溢れる街中を歩いていた。 混雑する街中を歩く事など日常茶飯事であり人目を縫って歩く事など容易い彼だが、油断したのか一人の女性がぶつかってきた。 「あ・・ごめんなさい」 彼がぶつかってしまった相手の女はぶつかってしまったと即さま謝りの言葉を発した。 「いや、こっちこそ・・」 僚も自分の不注意だったと詫びの言葉一つ漏らしたが相手の顔を見ると、渋めの表情が一変し緩んだ表情になる僚は 「ぬぉっ!僚ちん好みのもっこりちゃん!ねぇ、ねぇ、デートしよっ!」 尽かさず声を掛ける。そんな僚の豹変振りに唖然となる女は困惑と共にある記憶が甦った。 「冴羽さん?」 女は咄嗟に彼の名を口にすると僚の顔を見た。 「あれ〜、どこかで・・」 と女の顔をマジマジと見つめる僚。考え込む僚にフッと記憶が甦った。 「・・菜摘さん?」 と彼は女の名を口にすると 「はい」 女は頷き返事した。 亜月菜摘。 彼女は以前僚に仕事の以来をした人だった。 「しかし、驚いたなぁ。君にこんなところで出会うとは」 「私もです。あの時以来でしたから・・」 会話ついでに近くの公園に流れ着いた僚と菜摘。 「妹さんの事はふっきれたようだな」 「ええ、冴羽さんのお陰で救われました」 「そうか・・」 事件の事で切羽詰った心と表情は消えており、とても晴れ晴れしい顔をしていた。笑みを浮かべ会話をする菜摘は、 「でも、冴羽さんの女癖の悪さは相変わらずだわ」 クスクスと笑いながら言うと 「これは俺の生まれ持った天性なもんでね、自分の気持ちに正直なだけ!」 と冗談っぽく僚は返した。そんな僚は急に菜摘に急接近し肩に手を掛けると下心丸出しの顔つきで話を続けた。 「しかし、なんだ・・。菜摘さんとこうして再会したのも何かのご縁。お茶でも・・いや、何ならホテルで心を分かち合うのも・・」 「え!?あの・・その・・」 本気なのか?僚の言葉に戸惑いかわす事の出来ない状況に焦りも見せたのだが、遠くにから彼女の目に映る存在に気は奪われた。 「あ・・・」 菜摘は何かを訴えかけようと声を出すが、言葉を出す寸断の隙もなかった。 ドゴ―――――・・ン!!! 周囲を驚かせるほどの地響き。 巨大ハンマーに潰されくたばっている僚を目の前にし驚きと恐れに呆然としている菜摘。 その脇に殺気立たせている一人の女性が立ちはだかった。 「こらっ!僚!!男の依頼だと逃げ出したかと思ったら、この期に及んでまたナンパなんぞしとるか!!」 男性の依頼を受けてきた事に嫌気が差し、逃げ出した僚を追い探し当てた香がここに現れたのだ。 「ち・・違う。この人は以前に槇村と組んでいた時の依頼人で・・」 「そんな嘘が通じると思っているのか」 僚の胸倉を掴み睨む香に菜摘が脇から声を掛けてきた。 「い・・いえ、ホントなんです。以前、冴羽さんに依頼して助けていただいたんです」 「え?ホントだったの」 菜摘を見、話を聞く香はキョトンとした目をさせた。 「ほらっ!言わんこっちゃない。もっとも、彼女のようなもっこりちゃんなら何時でもお近づきになりたいけどね」 「僚!!」 冗談半分に話を蒸し返す僚に香は怒り、再びハンマーを食らいそうになる恐怖から慌てて誤魔化した。 香は次に依頼人との約束があると僚を無理矢理にでも連れて行こうと手を引く。香の強情さに根負けした僚は大人しく付いていく事にした。 「じゃあ、俺たちはこの辺で・・。妹さんの分まで頑張れ!元気でな!」 僚は、優しい表情の笑みを浮かべ菜摘に別れの声を掛けた。 「はい、冴羽さんもお元気で」 彼女もそれに対し笑顔で別れを告げ、香に手を引かれる僚を見送った。二人のやり取りの様子を見つめながら。 「ところでホントに疚しい事なんてなかったんでしょうねぇ」 「彼女も違うって言ってたろ」 「でもねぇ、イマイチ信用できないのよね。ホントにアニキに誓える」 「誓えるさ!槇村にでも神にでも・・」 「ん〜・・まっ、信じてあげる」 僚への疑いを断ち切った香のその言葉に僚は安堵の息を漏らし、そして香が笑いながら腕組みをしてくると香にやさしい表情で笑みを返す僚。 菜摘は遠目から二人の様子を見つめていると、フッと心の中に冷たい風が吹き抜けるような感情に捕らわれた。 『解っていた・・あの人の心に眠る本当のやさしさを・・。 あの人の奥底にある心の優しさは、自分を傷付けながらも周りを幸せにした。 あの人は変わった・・。あの時とは違う。 その優しい目をしている。そしてその心と視線の先にはおそらく大事な人であり、あの人の為に向けられたもの。 そしてあの人も幸せな笑みを彼に向けている。その光景は見ている周りの私たちも心温まり幸せにするような雰囲気を誘っている。 だけど――――・・。 だけど・・、心温まる幸せを感じているはずなのに、どことなく虚しい隙間風が私の心で吹き荒れる・・。 どうしてなの?なぜ・・なぜ・・・』 何時しか菜摘は、悲しい表情で二人を見送っていた。 ★あとがき★
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