一人では解けないパズルを抱いて

二人だけの昼下がり。

俺はいつもの芸術鑑賞(香に言わせりゃただのエロ本、らしいが)、
そして当の香はテーブルに何やら本を広げて、鉛筆片手に頭を抱えていた。

「何やってんだ?」
「ん、数独。ナンプレともいうらしいんだけど、
最近流行ってんのよ、頭の体操になるって。撩もやってみたら?」
「んなことしなくても撩ちゃんはアタマもカラダも万年ハタチだしぃ」
「言ったあたしがバカだった。あんたの頭の中はもっこりしかないもんね」

それは聞き捨てならないが。

「で、どうしたんだよ。さっきから行き詰まってるんじゃねぇの?」
「実はそうなんだよね。ここまでは埋まったんだけど、
そっから先がにっちもさっちも行かなくて」

ルールとしては簡単。9×9の升目の中、縦・横・3×3の升に1から9までの数字を重ならないように埋めていくだけだ。見れば香は初級編の問題ですでに音を上げているようだった。でも、今のところ数字が重なってしまったり、思いつきで入れてしまっているようなミスは見当たらなさそうだ。

「んー、ここに7が入るんじゃねぇの?」

こういうのは根を詰めすぎると視野が狭くなって、見えるものも見えなくなってしまうものだ。もう一度見直してみると意外な見落としが見つかったりする。
縦・横・3×3の升を見比べて、ここにしか入らないという数字を冷静に探していく。

それは人間も同じ。いつの間にか周りの状況に雁字搦めにされて、居場所を決められてしまう。こいつ――香だってそうだ。本当はこうやって俺の隣にいるような女じゃなかったはずだ。しかし実の親を失い、育ての両親も亡くしてたった一人の兄すら失い、俺の元に転がり込んだ。その兄を取り戻して、やっとこいつも自由になれると思いきや、それまでの年月があまりにも長すぎた。そして結局、香の居場所はここしかなくなってしまった。

「あっ、じゃここに4が入るね」
と香は7の隣を指差した。

香の居場所が決まれば自然と俺の居場所も決まる。
本来ならどこに行こうとどこで死のうと勝手な根無し草だった俺が、いつの間にかこの新宿にどっかりと根を下ろしていた。そして居着いている間にいろんなしがらみが出来て、俺たちの間にはガキなんて生まれちまって、ますますここから離れられなくなってしまった。

一つ升目が埋まるとそこからドミノのように数字が埋まりだす。

海坊主が居着いて美樹ちゃんが追いかけてきて、かずえくんが押し掛けてきて、
麗香が居座ってかすみちゃんが居直って、ミックまでやって来て。
そのうちに子供たちが生まれるとますますしがらみが強くなって、今さらどこにも行けなくなってしまった。死ぬことなんてもってのほか。

「ねえ撩、見てみて!もうすぐ全部埋まりそう」

ああ、パズルの神様――なんてものがいるのかどうか知らないが――
願わくはこの人生というパズルが間違っていませんように。



店主が数独にハマってるので、香ちゃんもハメてみました。
ウチの二人は自分の意志で、というより
周囲の状況に雁字搦めにされて生き方選んでいるような気がする。
ま、そんな人生もあるさ。


City Hunter