十六夜(いざよい)の月

はっと目が覚めた。

――あたし・・・いつの間に。

撩の帰りを待ったまま、ソファで寝入ってしまったらしい。



空には十六夜の月。



夢を見ていた、ということは覚えている。決していい夢ではなかったということも。
悪い夢なら忘れてしまうに越したことはない。でも――不安が胸をよぎるのは
撩がいないから。

きっと今夜は、いつものように飲み歩いているのではない。あたしに言えない――裏の、殺しの仕事。そんな夜は硝煙と血の匂いを誤魔化すように、アルコールと、女の匂いをさせて帰ってくる。


――あたしじゃ駄目なの?
  あたしの躰でその返り血を拭わせてくれないの?


パートナーとしても、女としてもあたしを認めてくれない、心の奥底のどす黒い闇に分け入らせてくれない、そんな撩の気持ちが判らなくなる。


愛されたい、女として。抱かれたい、撩に。


最初は淡い憧れだった。しかし、いつしかその願いは形を帯びたものになっていった。そんなことを言えば穢らわしいと軽蔑されるだろうか。でも、あたしも女なのだから。



空には十六夜の月。



見た目では昨日の満月と何ら変わりは無い。しかし、明らかにそれは欠け始めているのだ、半月後の朔へと。


――あたしも、同じ。


いつまでも若く、綺麗なままでいられるわけじゃない。少しずつ容色は衰えていく。ならばこの若さは何のために、誰のためにあるというのか。ただ徒に朽ちていくのは余りにも口惜しすぎる。
何をいざようことが、何を躊躇うことがあるだろうか――。






そんな本心を、撩の気持ちさえもかわすことをいつしか覚えてしまった。そして夜が明ければいつもの、無垢な香を演じればいい。
だけどこんな月夜の晩には感情を持て余してしまう、心だけではもはや満たされない想いを。
そしてまた、夜という名の迷宮に迷い込んでいく。
いつか、そこから抜け出せるだろうか。そしてその向こうのはるか遠くで待っているのは撩、あなたなのだろうか。


――香、と夜の果てからあたしを呼ぶ声が聞こえたような気がした。

もちろん元ネタは『愛と宿命のマグナム』ED『十六夜』
これをずっと「いざよい」と読んでいた店主はバカです。
(でもこの方は響きはいいですよね?)
もちろんあの映像は神村ファンの店主ならずともアニメCHの極致!ですが
店主なりに、脳内映像を再構成してみました。

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