even if・・・

春休みの補習だろうか、少女たちの一群が通り過ぎていく。

「それでカオリはどうだった?2年の成績」
「うーん、まぁまぁってとこ?」

その中でもひときわ眼を惹く長身の少女。

「でもいいじゃない英語に関しては、お姉さん英文科なんでしょ?」
「うん、短大だけど。でも教えてくれないよ、お姉ちゃん。訊いても『自分で辞書引きなさい!』っていっつも言われるし」

友人たちと笑い会いながら、家路につく前のちょっとした道草に出るようだ。

 

 

 

 

 

通りの反対側には長身の男。

「なぁんだ、女子高生ばっかじゃねぇか」

通り過ぎる少女たちを見遣りながらつぶやいた。背が高いだけでなく肩幅もあり、逆三角形の身体はスーツに映える。

「しかもみんな嘴の黄色いガキ。ぴーちくぱーちくよくあぁも話し続けてられるこった」
「その癖はいつもやめろといってるだろ。お前ときたら街を歩いてても女しか目に入らないんだから。
それも18から30までの美人ばかり・・・」
と彼の友人らしいもう一人の男があきれたように眼鏡に手をやった。

「だってこの目にはもっこりちゃんしか見えないんだもん」
「だからって行った先の受付嬢を片っ端から口説くこたないだろ。もうちょっと射程を絞ってだな――」
「俺には世界中の美人と一発っていう壮大な野望があるの!
いくらお前の彼女が美人だからって自分の主義主張を人に押し付けるなよ」
「彼女って、あいつとはただの同僚――」
「おーおー、そう言ってるのは当人ばかりなり。今や社内一有名な職場カップルだぜ。おっ、もっこりちゃん発見!」

そう言うと長身の男は通りがかりの美女へと飛び出していった。

「か〜のじょ〜、お茶しな〜い?」
 

 

 

 

 

「うわ、ナンパ?」
「それにしても今どき見え透いた手口よね」
「もうちょっとうまく声かける方法があるんじゃない?」

ナンパ男に冷ややかな視線をおくる少女たち。

「えーい、しっつこいわねぇ!」

いとも容易く足蹴にされる男。ハンドバックの攻撃をくらってよろめいた。

「うわっ!」「おわっ?」

よろめいた先はちょうど、件の少女たちの間で。直撃を喰らいそうになった長身の少女はとっさに身を避けた。
それでも鞄がかすってしまったのは避けきれなかったが。

「彼女〜、そんなつれないこと言わないでよ〜」

「カオリ、いこっ」
「あ、うん」

地面に尻餅をついたナンパ男を残して少女たちは去っていった。小さなマスコットを残して。

「・・・ハンマー?」

フェルトでできた、おそらく手作りであろうそれは少女趣味といったものとは程遠く。

「でもお似合いかもな、彼女に」

そう持ち主の少女の背中を見送る。そのとき、彼女が振り返った。ぶつかり合う視線と視線。

――照れくさいような、でも懐かしいような
――腹立たしいような、でもどこかで出会ったような

「カオリぃ、何してんのぉ」
「あ、今行く!」

そう言うと彼女は踵を返して駆け出した。

「リョウ、いつからロリコン趣味に走るようになったんだ?」

いくらナンパが上手くいかないからって、と眼鏡の男に声をかけられるナンパ男。

「いや、数年後を楽しみにするのも悪かないかなってな」
 

 

 

 

 

きっと、どこにいてもあなたを見つけられるから。たとえ・・・


 
撩がもし飛行機事故に遭わなかったら――
香がもし父親を殺人犯として失わなかったら――
それでもこの二人は巡り会っていてほしい。

ということでサイト開設のご挨拶として、この駄文をフリー配布したいと思います。
期限は特に切るつもりはないので、ご自由にどうぞ(^-^)/

City Hunter