to his coy mistress

壁の花、というのだろうか。
決して広くないパーティ会場で、私は所在なくたたずんでいた。

集まっているのは日本在住の外国人たち。わりとカジュアルな格好でそれぞれがグラス片手ににこやかに談笑している。このような付き合いもジャーナリスト・Michael F. Angellにとっていつもの仲間同様に欠かせないものなのだろう。

「パーティっていってもそんなにフォーマルなものじゃないんだ」

と彼は言ってくれたが、こういうフランクな場の方がかえって気が重い。誰もが打ち解けた雰囲気で会話を交わしているというのに、私はその中に入っていけないのだ。

「Mick, you're so happy guy to marry such a beautiful Japanese woman!
(君は幸せ者だよ、こんな綺麗なヤマトナデシコと結婚できて)」

いかにもアメリカ人らしい白人男性がオーバーアクションでミックの肩を叩く。
言葉が判らないわけではない、国際学会でも英語の質問に流暢に答えることができるのだから。だが、こういう何の接点も無い場でのフリートークというものがとても苦手だった。日本語でも英語でも。インターナショナルな場ではそれでも「奥ゆかしいヤマトナデシコ」で通すことができる。でも、だからといって日本の女性がみな同じように引っ込み思案というわけではないのに。

たとえば――そう、香さん。彼女だったら初対面の相手でも物おじせずに話しかけることができるだろう。だから私も彼女たちと友人になれたのだし。
それは相手が外国人でも変わらないだろう。きっと、知ってる単語を並べただけの片言の英語でも懸命にコミュニケーションを取ろうとするはずだ。

明るくて、快活で、物怖じしなくて・・・そういう人になれたらどんなに良かっただろう。でも私はなれなかった。内気で、人付き合いが苦手で、いつも通知表に「積極性が足りません」と書かれて親を困らせた。おしゃべりの輪の中に入るよりは、一人で本を読むか理科室に籠っている方が好きだった。医学部に入ったものの、患者を診察しないといけないことに気づいて慌てて研究の道に進んだほどだ。あの偽装結婚だって、あれで一生分の勇気を使い切ってしまったに違いない。今、あんな思い切ったことができるかと訊かれてもYesと答えられないだろうから。

(やっぱり香さんの方がいいわよね・・・)

自分から輪の中に割って入っていくミックの背中を見ながら、いつの間にか頭の中にそんな考えが浮かんでいた。
――彼女は気さくで、華があって、一緒にいて楽しいと思える人だ。私みたいな地味な女といたって面白いと思わないはず・・・。

「What's wrong(どうしたんだい), Kazue?」
「ミック・・・」

彼の碧い目が心配そうに覗き込む。
でも、こんなことは彼にも言えない。言ってしまったら、軽蔑されるに決まってる。

「――悪かったね、カズエ。キミはこういうところはあまり好きじゃなかったね」

談笑の輪を遠くに眺めながら、そっと肩に腕を回した。

「でもそれをネガティヴに捉えることはないよ。それがキミなんだ。
だいたい、世の中がみんなおしゃべりだらけだったら煩くてかなわないよ。
キミみたいなもの静かな聞き上手がいるからボクみたいな人種が
一方的にしゃべり続けてられる。Best partnerだと思わないかい?」

そう言うと私を連れてこの場を立ち去ろうとした。

「いいの?」
「ああ、かまわないさ。顔を出せばアリバイは成立」
と茶目っ気たっぷりに微笑む。

「それに、今度からは『ボクのsweetheartの恋人はtest tubeなんです』
って言えば許してもらえるだろうしね」

私にそんな厚かましさもユーモアのセンスも無い。でも、だからこそbest partnerなのだろう。クロークで荷物を預かると私たちは華やかな会場を後にした。

店主自身、香のように「元気で明るく」というタイプではなく
むしろ大人しく引っ込み思案な方です。
なので、ときどき疲れちゃうんですよねぇ
彼女や美樹さんや野上シスターズのような積極的な女性を“演じる”ことが。
その点、かずえさんは登場回数が少ないからどうとでも書けるわけで【苦笑】
でも、そういうキャラばっかりだったら面白くないですもんね。


City Hunter