たまにはこんな二人も・・・

吹き過ぎる風が冷たくなると、なぜか人のぬくもりが恋しくなる。だからだろうか、街往く人の波にもカップルが目につくようになる。だが実際のところ、比率としては真夏の頃と大して変わらないのかもしれない。ならそう感じるのは、自分自身がぬくもりを求めているからだろうか?・・・それじゃまるで年中欲求不満の誰かさんと同じじゃないの。

「ねぇか〜のじょ、肌寒くなってきたこの季節、ボキと身も心も温め合いましょお♪」

とヤツが声をかけているここはいつもの騒々しい新宿のメインストリートではなく、静寂に包まれた美術館の前。なんであたしたちがそんな不似合いなところにいるかというと、きっかけはミックから貰った展覧会の招待券だった。なんでも取材先から頂いたものだそうだが、あたしはともかく芸術鑑賞といってヌード雑誌によだれ垂らしてる撩はそんなものに見向きもするはずがなく。
しかし、展覧会の期日がギリギリまで迫り、せっかくのタダ券を紙切れに変えてしまうのはもったいないと撩を引きずってきたのだが・・・。

「そこの知的なもっこりちゃん♪芸術の秋、美術館で名作を堪能したあとは
キミという名作を――」

あーあ、また撃沈。
自称『プロのナンパ師』なら判んないかなぁ。美術館といえばこの季節、ちょっとインテリぶって見せたい男子にとって絶好のデートコース。だからそもそもカップル率が高い。これはあたしの主観じゃなく客観的な統計的事実。しかも、一人で美術展に来る女性客ってのは意外に少ないもの。こらこら、だからといって女性二人連れに声をかけるってのも失礼なんじゃないの?

連戦連敗に嫌気がさしたのか、撩はベンチに腰を下ろして、目の前のロダンのように頬杖ついて咥え煙草。その横顔は自業自得とはいえ、ちょっとかわいそうな気がした。
――いや、かわいそうなのはむしろあたし。せっかく撩を誘って美術館に来てみても、連れはあたしをほっといてナンパ三昧。しかも周りはカップルだらけでますます肩身が狭くなる。ああ、周りはあたしのことどういう眼で見てるんだろう。秋の憂愁もお構いなしに声をかけまくるナンパ男を、ハンマー片手に険しい眼で見つめてるあたしを・・・。

「ねぇ、そこのおにーさん♪」
「・・・・・」
「そこのベンチに座ってるさっきから振られまくりのおにーさん」
「なんだよ」

しっしっ、と手で追い払われた。

「さっきから振られまくりの背の高くてカッコいいおにーさん」
「はいはーい♪って香かよ」
「へへっ」
「どーしたぁ、男に声かけてもらえないからって思い余って逆ナンか?」

早い話が逆ナンだけど。

「余りにもナンパが失敗続きなのが見ててかわいそうだったからさ、
愛の手を差し伸べてあげよーかなぁって」

きっと、どうせ「いくら失敗続きだからって、何が哀しゅうてオトコとお手手つないで展覧会見て回らにゃならんのか」なんて言われるに決まってる。でも、

「まぁ、たまにはナンパされる側に回ってみるってのも悪くはないか」

そう言って撩が立ち上がった。その左腕にあたしの腕を滑り込ませた。ハトが豆鉄砲喰らったような顔をする撩。

「たまにゃいいだろ」
「ま・・・ね」

すると撩の口元から笑みがこぼれた。
秋風は日に日に冷たくなるけど、がっしりした腕から伝わるぬくもりがとても心地よかった。

前回のブログ17000hitリクに引き続き、
miサマから20000hitのリクをいただきました!
お題は「完全版16巻・第159話『海ちゃんたら色男!』扉絵の二人」
この絵は店主も数ある扉絵の中で一番大好きなものです。
その他にもカッコいい二人、ラヴい二人の扉絵はいくつもありますが
そのいずれもストーリーの二人からは浮いているような、
いわばパラレルな二人のように感じられてしまうのです(なんか嫌なヒビキだ)
でもこの扉絵の二人はまさにストーリー中の二人そのもの。
パートナー以上恋人未満な中での「ありえる」ラヴだと思いませんか?

とはいうものの、タイトルまでは思いついたんですが
そこから先のシチュエーションなどで行き詰まり放置プレイ。
しかし、依頼主のmiさまからの暖かいコメント、
そして『芸術の秋』という言葉にインスピレーションを得て一気に書き上げました。

遅くなりましたが、どうかお受け取りくださいませ。
苦情、悪評甘んじて受けますので・・・。

City Hunter