After the Rain

なんとなく憂鬱な雨の日。
一人きりの部屋でぼんやりと膝を抱えていた。
女の一人暮らしなんてものはきれいなようで、意外と物に溢れかえっている。仕事が忙しくて片付けもままならないとあればなおさら。そんなところで雨に閉じ込められてうじうじしていたら心まで湿っぽくなりそうで、コンヴァーティブルのキーに手を伸ばした。行先も決めないまま。

憂鬱の原因なら判っている――失恋したのだ、わたしは。
あの日、海坊主さんと美樹さんの結婚式のときに、あの二人も想いを確かめ合ったのだ。訊かなくても判る。攫われた香さんを撩が連れ戻してきたとき、そっと肩を寄せ合う二人の姿があまりにも自然だったから。これでようやく、わたしの長い長い片想いは終わりを迎えたのだ。

今までは恋をしたら楽しかった、たとえ片想いでも。好きな人の姿を目にするたびにドキドキして、でも嬉しくて、それだけで幸せだった。
でも今度の片想いは違った。重くて、辛くて、不安で胸が苦しかった。いっそ彼女を憎めればよかった。だけど香さんはわたしよりも魅力的で、寛容で、撩が選ぶのも当然の女(ひと)だったし、わたしもそんな彼女が好きだった。なのに、敵わないことを判っていながら嫉妬にかられて、その度にどんどん自分が嫌になっていった。
だから、今はとてもほっとしてるというのは決して強がりなんかじゃない。偽らざるわたしの本心。これでもう苦しまなくていい、もう自分を責めなくていい。

窓の外には水平線が浮かぶ。昔、夏になると遊び仲間とよく来た海岸。気の置けない仲間とわいわい騒ぎながらも、いつか彼氏と二人だけで来ようと心に決めていた。その、最初はぼんやりとしか浮かばなかったまだ見ぬ恋人の姿は、次第に漆黒の眼をした長身の男へと変わっていった。真夏の浜辺で周りに見せつけるように連れ立って歩いたり、人気のない夕暮れ時にそっと寄り添ったり。
でもそんな想像は靄の奥にかすんで消えた。
眩しかった太陽は今は影も形も無い。わたしが今立っているのは11月の雨の海岸――吹く風の冷たさが冬の訪れが近いことを密かに告げていた。

手が届かなくなってようやく気づいた。わたしがどれだけ撩を好きだったか。たとえ、それが苦しいだけの恋であっても、わたしはその日々を否定したくない。自分にとってそれは決して消してはならない想い出だから。今は思い出すのも辛くても、いつかきっと笑って振り返られる日が来るはずだから。

いつしか雨は止んでいた。ようやく幌を折りたためる。そしたら頬に風を感じながら走ろう、一晩中。流した涙が風に乾くまで。

featuring 『After the Rain』 by TUBE
麗香さんをピンで書いたのはおそらく初めてでしょうか。
でも、この曲はまさに彼女だと思いました。特に

人は恋をすると 楽しいっていうけど
何でこんなに 重く辛いんだろう
...
人は失恋すると悲しいっていうけど
何でこんなに ほっとするんだろう

という一見アマノジャクな歌詞ですが
これまさしく麗香の叶わぬ片想いの心情だったんじゃないかと。
でもきっと彼女のことですから
もっといいオンナになって撩を見返してやることでしょう♪

ああ、もっと掘り下げて書きたかったのに・・・今はこれが限界【泣】


City Hunter