After the Rain |
|
なんとなく憂鬱な雨の日。 一人きりの部屋でぼんやりと膝を抱えていた。 女の一人暮らしなんてものはきれいなようで、意外と物に溢れかえっている。仕事が忙しくて片付けもままならないとあればなおさら。そんなところで雨に閉じ込められてうじうじしていたら心まで湿っぽくなりそうで、コンヴァーティブルのキーに手を伸ばした。行先も決めないまま。 憂鬱の原因なら判っている――失恋したのだ、わたしは。 今までは恋をしたら楽しかった、たとえ片想いでも。好きな人の姿を目にするたびにドキドキして、でも嬉しくて、それだけで幸せだった。 窓の外には水平線が浮かぶ。昔、夏になると遊び仲間とよく来た海岸。気の置けない仲間とわいわい騒ぎながらも、いつか彼氏と二人だけで来ようと心に決めていた。その、最初はぼんやりとしか浮かばなかったまだ見ぬ恋人の姿は、次第に漆黒の眼をした長身の男へと変わっていった。真夏の浜辺で周りに見せつけるように連れ立って歩いたり、人気のない夕暮れ時にそっと寄り添ったり。 手が届かなくなってようやく気づいた。わたしがどれだけ撩を好きだったか。たとえ、それが苦しいだけの恋であっても、わたしはその日々を否定したくない。自分にとってそれは決して消してはならない想い出だから。今は思い出すのも辛くても、いつかきっと笑って振り返られる日が来るはずだから。 いつしか雨は止んでいた。ようやく幌を折りたためる。そしたら頬に風を感じながら走ろう、一晩中。流した涙が風に乾くまで。 featuring 『After the Rain』 by TUBE 人は恋をすると 楽しいっていうけど という一見アマノジャクな歌詞ですが
|