prayer

新宿・花園神社。
新宿の総鎮守と謳われ、アパートから程近いここには毎年初詣に訪れており、あたしも幼いころ両親や兄に連れられて七五三のお参りに来たことがある。
そのあたしが今は我が子を連れて3歳のお祝いに来ているのだから、月日が経つのはあっという間なのかもしれない。

従兄の秀弥くんとは学年では1つしか違わないが生まれ年では2歳違いなので、兄一家の5歳のお祝いと一緒にすることになった。
お参りも済ませ、真新しい袴姿でひょいひょいと石段を駆け下りていくお兄ちゃんを追いかけようとするが、着慣れない着物のひかりの足元はおぼつかない。このままでは借り物の着物が汚れてしまうし、第一ひかりがけがをしかねない。千歳飴の袋を手に取ると、空いた小さな手をそっと握った。

「よかったわ、ひかりちゃんぴったりで」

そう冴子さんが声をかけた。
白縮緬地に元が白地と判らないくらい華やかな模様がぎっしりと描かれた古風な被布は野上家から借りたものだ。ちょっと派手すぎるかと思ったが、一見男の子と見間違えられがちな元気旺盛なひかりに不思議とよく似合っていた。

「唯香まではわたしたちもそれを着てたのよ。
でもその下に双子が生まれて、それで2着いっぺんに買ってしまったものだから
ずっとお蔵入りになってたの。でもひかりちゃんが着てくれて本当によかった」
「そんなぁ・・・ちょっと悪いわ、こんないいもの貸してもらっちゃって」
「いいのいいの。父には言えないけど
母なんて本当は女の子がよかったって言ってたくらいなんだから。
うちには女物は有り余ってるけど男物は、ね」

とそっと耳打ちする。
その冴子さんは今日は紫の着物で、いつものキャリアウーマンとは打って変わって七五三の母親らしい風情だ。アニキもカメラを手にして一張羅のスーツに身を包んでいる。あたしは慣れない着物よりはと、絵梨子からもらったスーツで来たけれど(これも「そろそろひかりちゃんの七五三でしょ?」と押し付けられたものだけれど)ここに撩の姿はなかった。

こういうとき、いつも撩は姿を見せることはない。
ひかりのお宮参りだってそう、あたしとアニキと冴子さんと、今とほとんど変わらない面子だけだった。入園式のときも、一緒に入った鴻人くんやジェイクなんて海坊主さんやミックまで保護者席に来ていたけど、結局撩は来ることはなかった。
ひかりの身を守るためにはそうせざるを得ないことは判っている。それは撩の子だと、シティーハンターの娘だとおおっぴらに宣伝しているに等しいこと。少しでもこの子に降りかかる危険を減らすにはこうするしかないのだ。

「そういや、覚えてるか?」
「えっ?」

不意にアニキが話しかけてきた。

「お前の七五三のこと。まあ、3歳のときのは覚えていないかもしれないけどな」

3つの頃はまだ母も存命で、病院から一時帰宅して一緒に収まった写真が残っている。そして7つのお祝いまでの間に母が死に、そして父も亡くなりあたしとアニキの二人だけになった。

「ごめんな、あの時はちゃんとした晴れ着を着せてやれなくて」

アニキが撮ったあたし一人の7歳の写真は、その年の入学式に着たワンピース姿だった。

「ううん、だってうちにはあのときそんなお金なんて無かったじゃない。
借り着だってお金がかかるし」
「それだって知り合いに頼めばタダとはいかなくても
なんとか借りられたかもしれないじゃないか。
お前だって着たかっただろう、きれいな振袖」

ふと手を引く我が子に視線を向ける。
着付けの間は窮屈さにぐずっていたが、着てしまえばこんなお転婆でもお姫様気分が嬉しいのか、すっかり上機嫌であたしを見上げて微笑んだ。

「でもいいの、お祝いしてくれるっていう気持ちだけで充分」

あのときまだアニキはまだ15歳であたしを育てていくのでやっとだったから、七五三なんてすっぽかされても当然だった。でもアニキはあのときあたしの手を引いて連れてってくれた、ここに。七五三は子供の成長を祝うとともにこれからの健康と無事を祈るものだから。きっと今のあたしがあるのも、アニキのおかげ。

「ねえ、これからどうする?この後両親がレストラン予約してくれたんだけど、
それまで時間が空いてるし、香さんさえよければ一緒にお茶でも――」

「君が気を利かす必要はないんじゃないかな」

アニキの視線の先には、鳥居の奥に真っ赤なクーパーが止まっていた。
ここにもいた、この子の成長を祝い無事を祈る人が。

「パパぁっ!」

ひかりはあたしの手を離れ、まるでシンデレラのように着物の裾をつかむと参道を走っていった。草履が片方どころか両方脱げて飛んでいくのも気にしない。そして鳥居のゴールまで駆け抜けると父親のもとへと飛び込んでいく。
すると普段着のままの撩は人目をはばかることなくお転婆な愛娘を抱き上げた。

浅葱さまから753hitということで、そのまんま『七五三』というお題を頂きました。
「ひかりでも香と槇兄でも」とのことでしたので、いっそ両方やっちゃえ〜!と
まとまりのない駄文になってしまいました、とほほ・・・。
でもHP見ながら、ひかりに似合いそうな祝い着を探すのは楽しかったです♪
これを着せてあげたい!という親バカ心【笑】が執筆のエネルギーになりましたし。

ということで浅葱さま、こんなんでよろしかったでしょうか?
リクエストありがとうございました。これからも当店をごひいきにm(_ _)m


City Hunter