家族でぜんざいを食べる日

2010.1.11

今日は休日ということもあって、新宿の街にはいつもの月曜以上にもっこりちゃんが溢れていた。この時期は一年で一番寒い時期だというが、ここ近年の暖冬傾向の甲斐もあって、ブーツにナマ足の若い子が闊歩している光景は不謹慎かもしれないが温暖化サマサマかもしれない。もっとも、目にも鮮やかなカラータイツの脚線美もなかなかのものだが。

下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、とは言いたくないが、これだけ広く網を掛ければ引っかかる獲物も必ず出てくるわけで、幸運なことに彼女のリクエストで西新宿の高級ホテルのケーキバイキングを満喫中だ。
年の頃は20代半ばか、明るい茶色の髪も少し濃いめのアイラインもこの年代なら平均的だろう。だが頭の中身も平均的に空っぽかというとそうでもなく、なかなか気のきいた会話のできる子で、これは久々の当たりくじだ(最近のもっこり20代ときたら、外見ばっかセクシー系でも中身は全然お子様だったりするもんなぁ)。
この子とだったらお一人様¥3,465也も高くない、うん。

「あーっ、やっぱこういうところのケーキって美味しーっ!」

と、目の前に並ぶ小ぶりながらも繊細そうなスイーツを前に、一欠け口に運んでは恍惚の表情を浮かべる。

「こういうところにはよく来るの?」
「女の子同士じゃなかなか来られませんよ、こんな高いとこなんて。
何かのイベントで安くなってるときぐらいじゃないと――
あっ、別に冴羽さんにたかるつもりで来たいって言ったわけじゃないですから!」
と必死になって弁解しようとする。うむ、気遣いもできてよろしい。

「あれ、冴羽さん食べないんですか?」

良いところのケーキは安物よりは甘さ控えめになっているとはいえ、あまりこういうものには興味が持てそうにない。目の前の皿の上にはそれほど甘くなさそうなのが申し訳程度に乗っているだけだ。

「だったらあたしが冴羽さんの分も元取ってきますね♪」
と言うなり、彼女はスイーツのコーナーへと元気よく飛び跳ねていった。

手持ち無沙汰になった目がふとガラスに隔てられた廊下の方を見遣ると、振り袖姿の女性の集団がぞろぞろと通り過ぎていった。ほとんどが着物に似合わぬ明るい髪で、それをアップにした残りを四方八方逆毛に立てている。化粧もみな概して濃い。というかギャルメイクの域を出ていないような。
その合間に、やはり茶髪の若いスーツ姿の男、ときどき派手な色の羽織袴姿が切れ間に見えるが、どうも印象が薄いのはついついこの目がもっこりちゃんに反応してしまうからだけではあるまい。
だが、一体何の集団だ?こういうところなら結婚式とかもあるだろうが、それにしても年齢がやけにまとまりすぎているような・・・。

「ああ、成人式かぁ」

そう、再び皿いっぱいにスイーツをてんこ盛りにした彼女が戻ってくるなり、その一団を目で追いながらつぶやいた。

「成人式?」

ああ、今日はそういえば成人の日か。

「ええ。新宿だと確か毎年ここのホテルの大宴会場でやるんですよ」

ということは、香もここでやったのだろうか・・・いや、それだってもうだいぶ前の話だ。それよりも確かなのは、ひかりもゆくゆくここで行われる成人式に出るということ――ひかりが成人式か・・・でももうあいつも、誕生日が来れば15歳。その前に中学卒業だ。あっという間だな、ちょっと前まで小さい子供だと思ってたのに。そして、それ以上にあっという間に今度はこの一団に混じることになるのだろうか・・・さすがにあそこまでケバくならないとは思うだろうが。
だが華やかな晴れ着を身にまとい、スーツや羽織姿のジェイクや鴻人に囲まれ(1つ上の秀弥がその場にいないであろうことはかすかな救いだ)楽しげに人生で一番キレイな季節を過ごす日が来るのだろうか。
そんなこと、ずっと先の話だと思っていた。初めてあの子を抱き上げた瞬間は。
だが、それがすでに目の前に迫ろうとしているのか。

「――あたしは違うんですけど、友達が新宿の子で
何年か前にここでやったって。立食パーティ形式で、
出てきた料理がすんごいおいしかったって言ってたんですよぉ」

何年か前――そりゃそうだろう、20代半ばなのだから。
ということは、俺よりもひかりの方が齢が近いってことか?
もちろん、考えないこともない。自分が毎日声をかけているもっこりちゃんは、実は娘と10も違わなかったりすると。だが、気にしないように心がけている。考え出したら最後、自分のやっていることが空しくなるだけだ。

「――だから来たかったんですよねぇ、ここのケーキバイキング♪」

そう思うと、目の前の彼女がまるで自分とは違う種類の人間のように思えてしまう。彼女の言葉もまるで外国語のようだ。いや、ちゃんと意味は判る。だがその中身が右の耳から左の耳へと通り過ぎていってしまうのだ。そうなるともうおしゃべりを楽しむどころではない。

「ああ、悪ぃ。俺、用事思い出したから」
と言うと二人分の料金をテーブルクロスの上に置く。

「え、まだ時間残ってますけど」

その言葉は聞こえないふりをして席を立った。

それからどこを通って家まで帰ったのか。おそらく街を歩くもっこりちゃんも目に入らなかったのだろう。オーバー30の美人ならともかく、それ未満では今の自分にとっては娘も同じなのだから。

リビングのドアを開けると鼻腔をくすぐる小豆を煮た匂い。

「あら撩、早かったんじゃない?」

どうやら女二人でこっそりおやつにするつもりだったのか。テーブルの上には器に盛られたぜんざいが二つ。

「今日は鏡開きだから、鏡もち割ってお汁粉にしたの。
塩ぜんざいだから撩も食べられると思うけど、どう?」

・・・そういやケーキ、ほとんど手をつけてなかった。

「食う」
「じゃあ待ってて、今よそってくるから」

と言うなり台所へと消えていく。

一方の娘はベンチに腰掛けたまま、餅を長く伸ばしながらぜんざいにぱくついていた。その仕草はまだまだ子供っぽさが残るものの、だが涼しげな目元や細くしなやかな指先は年相応に大人び始めていた――あの頃はまだ不器用に箸を使ってたのに。
ああ、初めての鏡開きのときは、まだ1歳前だったけど、スプーンですくって口に運んでやってたっけ。それがそのうち振袖を着ることになるのか。そしていつかは・・・。

「パパ?」

娘の声で我に返る。

「何じろじろ見てんのさ」

そう言われて答えに窮したところで、
「はい、お待ちどうさま」

タイミングよく香が大盛りのぜんざいを運んできた。

7000hitを踏んでくださったsuzuさまから、
今年の成人の日の冴羽ファミリーの風景をリクエストしていただきました。
これを機に新宿区の成人式について調べてみましたが
某Kプラザホテルだったんですねぇ、撩たちも何度か来たことがありそうな【笑】
ということは、会場さえ変わらなければひかりたちもいずれ
そこでの式に出るんでしょうねぇ。その光景も書いてみたいです♪

ということでsuzuさま、こんなんでよろしかったでしょうか?
これからもHard-Luck Cafeをどうぞご贔屓にm(_ _)m


City Hunter