You've got a friend |
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MG‐MGB、ブリティッシュ・ライトウェイトスポーツを代表するコンヴァーティブルだ。エンジンがどうの走りがどうのというのは本職のモータージャーナリストに任せるとして、特筆すべきはやはり英国車らしいクラシカルなデザインだろう。 1962年の発売当初の雰囲気を色濃く残すフォルムを、マイナーチェンジを重ねながらも80年の生産中止まで残し続けたというのは、ヤツの愛車ほどではないがさすがは伝統を重んじる国・イギリスといったところだ。また、ロングセラーだけあって台数も豊富でつまりリーズナブル、扱いやすさも相まって「ヴィンテージカーの入門車種」とも呼ばれる、というのはクルマ以上にヴィンテージな、教授の知り合いというやはりジイサンの、クラシックカー専門ディーラーの受け売りだ。 そのジイサンになぜかこの空色のMGBを押しつけられてしまったのだ、「あくまで試乗ってことで、気に入らんかったら返してくれたって構わんよ」と。 なので、あのold dadの言葉に甘えることにした。しばらく乗って、気に入ればカネを払って自分のものにすればいいし、そうじゃなければノシを付けて返せばいいだけのこと。なのに――MGBにはなかなか出番が回ってくることはなかった。 「着いたよ、カオリ」 海沿いの道路はクルマから降りてビーチへ出なくても一面のオーシャンヴュー。 「Just a minute(ちょっと待って)」 と、ここからは小細工。別に縦列駐車のテクを見せつけなくても、パーキングロットの線が引いてあるわけでもなければ、前後にぴったりクルマが停まっているわけでもない。ただ、助手席のヘッドレストを抱きかかえるようにして後ろを向きながらバックしていると、どうやらシートごと抱きかかえられているように感じるらしく距離がギュッと縮まるのだ。だが、助手席に手を伸ばそうとしてその手が止まってしまったのは、慣れない右ハンドル車だったからなのか、それとも―― 「All right, here we are(さあ、ココだ)」 ミラーを手掛かりに少しだけバックしてから、サイドブレーキを引いた。そして、 「まさかキミが来てくれるとは思わなかったよ」 いつもの無邪気な笑みの陰に、カノジョらしからぬコケットリーがちらりと赤い舌を覗かせる。まるで淡い期待を抱かせるかのように。 「それに……ミックに相談したいことがあって」 カオリの眼は窓の外の海も、ドライバーズシートのオレを見るでもなく真っ直ぐ前へと向けられていた。 「あたしはずっと撩に支えてもらってきた――アニキを失ってから、ずっと。 そうカオリは哀しそうな眼で笑う。そんなことはない、と言ってやりたかった。 夏の終わりにチョウジリを合わせるかのように、ようやく顔を覗かせた陽の光がキラキラと波間に照り返す。その透き通った輝きよりも眩しく澄んだその目から、潮が満ちるように涙が溢れた。気がつけばオレはその事実に憤っていた―― ――君が落ち込んで、不安で、誰かの優しさが必要で きっとそんなとき、カオリが助けを求めるのは間違いなくリョウなのだ。 ――冬でも、春でも、夏でも、秋でも でも、オトコとオンナってのは得てして相手にその人以上のものを求めてしまう。 「そんなことはないよ。キミほどリョウに相応しいパートナーはいないさ」 ようやくカオリがくすりと笑った。 「それに――オトコってのは弱みを見せたがらないイキモノなんだよ、 もちろんこの二人はただの男と女じゃない。お互いがお互いのために存在する別れた半身。だからきっと、ありふれた男女のトラブルなど簡単に乗り越えられるはず―― 「Ain't good to know you've got a friend そうカオリがラジオに合わせて口ずさむ。 「知ってるのかい、この歌」 確かオレとあまり齢が変わらないはずだ。となると海を挟んでちょうど同じ頃、同じ歌を聴いていたのかもしれない。そしてもしかしたらカオリも。そして、 「ありがとう、ミック。あなたが友達で本当に良かった」 そう笑みを浮かべるカオリは、いつものカノジョだった。いや、それはオレの台詞さ。オレがカオリの友達で、タダの友達で本当に良かった。たとえ抱きしめて涙を拭うことができなくても、オレだけがカノジョにしてあげられることがあるのだから。 《お送りしたのはトーキョー・シンジュクのMr. 『スタリオン』からのリクエスト――》 ラジオから流れるDJの言葉に耳を疑った。幸い、家でもクルマでもかけているのはFEN――米軍の英語ラジオなので、カオリは気づいていないようだが…… ――すべてはリョウの手のひらの上ってことか。 さすがにカオリは今日の行先も同行者も言っていないだろうけど、目と鼻の先の向かいなら動向はヤツには判るはず。そしてカオリが最近塞ぎ込んでいるのも、カウンセラーに選ばれたのがオレだということも。ついでに「余計な手出しはするな」とクギも刺して。 それからしばらく経って、夏が終わると同時にMGBはディーラーのジイサンの元に返した。そして本格的に肌寒くなり街往く人も長袖ばかりになった頃、リョウとカオリが街を歩いている様子を目にすることがあった。 featuring TUBE『ともだち』(2005“TUBE”収録) & Carole King『You've got a friend』 TUBEの方は、一発で「この歌はミックだ」と【笑】 というわけで何年も温め続けていたネタです。 片想いな三角関係の歌なので、ある意味で「恋>友情」なんですが キャロル・キングの方は友達バンザイ、友情100%w 店主は「友達より恋人の方がエライ」とか言いたくない派なので コラボでうまいことバランスがとれた……んでしょうか【苦笑】 やっぱり店主の中でミックはこういう立ち位置です。
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