裸足のFortuna |
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何でそんなことをしようと思ったのかも忘れてしまったんだが、引き出しのカセットテープの中から一本引っ掴んでみたそれは、鉛筆書きのラベルの文字も判読できないほど薄れていた。仕方がないので中身を聴いて確かめようと、デッキに突っ込んでみたところ、 「――懐かしいな」 もう30年ほど前のものだろうか。あの頃、夏中ずっと愛車のオーディオ(当時はクーパーではなくCR−Xだった)に納まっていたカセットだった。 匂いには人の記憶を呼び覚ます効果があるというが、それには劣るとも音楽にも同じことが言えるはずだ、プルーストのマドレーヌのように。 「――海に行きたいぃ?」 「パレオの中に銃が仕込んであるから、結局水の中には入れなかったし」 そう、竜神会の組長に呼び出されたが交渉決裂、1億せしめてそのままトンズラしてしまったのだ。もっとも、急所は外したとはいえ血を流す怪我人がぷかぷか浮いてるプールに入りたいという奴はいないと思うが。 「誘ってくれる友達はいなかったのかよ」 まだこの頃は昔の、カタギの友人とも誘われるままにほいほいと遊びに行っていたようだ。一度は俺を放ったらかしにしてスキーなんか行っていたし。 「それがさっぱり。大学行った子はバイトだサークルだって忙しいみたいだし あ、それで仕方なく俺に白羽の矢が立ったってわけね。と考えが至ればおのずとテンションも落ちてくる。だが、そこを狙い澄ましたように、 「海には水着のもっこりちゃんがいっぱいだと思うんだけどなぁ……」 普段俺のナンパをとっちめる側からしてみれば不本意千万という表情で、ちらちらとエサを目の前にちらつかせてきた。それが生餌か疑似餌かはこの際関係ない。が、それでも重い腰を上げる決め手とはならなかった。 確かに露わな肌も目に眩しい水着姿の美女には心惹かれるものがあった。 が、引っ張り出されてしまったのだ、結局。夏の海と太陽のもとに。 あいつがいなければ、俺は野良犬のように夜の闇の中を彷徨っていただけだっただろう。もしかしたらとっくの昔に生命を落としていたことだってありうる。 「あら、『サンディー』じゃない、懐かしー♪」 バラードの音色に誘われたのか“幸運の女神”がひょっこり顔を現した。 「この歌って大人っぽいから、撩の隣で聴くたびに なんて言いながら、無防備に肩に身を預けてくる。その変わらない細い肩をさりげなく抱き寄せる。 「それがまぁ、どうして」 上目づかいで俺を見遣る。子供っぽく尖らせた口唇はあの日と変わらないが、ウブな少女を魅惑的な大人の女に変えるほど、あれから長い年月が経った。 「なぁ香、これから海に行かないか? 天気もいいことだしさ」 全曲が終わったカセットを取り出してケースにしまい、ポケットに納めた。この夏の最新盤はすでにクーパーの中でフル稼働中。でもテープ1,2本で着くほど海は近くはないのだ、残念ながら。 「え、ちょっと、これから?」 まぁ、あいつにしてみれば水着だ何だと準備のことが頭をよぎるのも当然だ。 featuring TUBE『裸足のラッキーガール』(“Your TUBE+My TUBE”2015) アルバムリリース前、武道館の30周年記念ライヴでの初聴きで 今年の暑中見舞いに即決でした♪ が、残暑になってしまいましたが…… Oh My Summer Days かなり荒れ果てた僕の渚に夏が来た 太陽を連れて 未来を連れて 裸足で駆けてきた天使 なんて、まんま撩と香のたどってきた歴史だなと。 30年の夏を一気に駆け抜けるような歌詞が 自ずと二人の歳月を重なる、彼らのこの曲を置いて この夏の暑中/残暑見舞いはないでしょう!! というわけで、31度目も、32度目の夏も 二組ともども現役でお願いしたいものです♪
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