Second Present |
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撩から初めて貰ったプレゼントは、思い起こせばローマンだった。 確かにそれはそうなんだけど(そしてよっぽどあたしたちらしいのだけど) それじゃあまりにも色気が無さすぎる。二番目に貰ったプレゼントは…… たぶん、初めてのホワイトデーだったような気がする。 その日、あたしは内心どぎまぎしていた。 そうは言っても、「幻の銘酒」というだけあって手に入れるのも一苦労だった。 「あーあ、オレにも情報屋がいればなぁ」 ふと、そんなことが浮かんだりもした。 でも、表の世界でも同業者のネットワークは大したもの。あたしが昔から(それこそ子供の頃のおつかいから)よく知っている酒屋さんにお願いしていたら、歌舞伎町の店に置いてあると噂があるとのこと。詳しいことは当然よく判らないものの、それを信じてあたしはその店に行ってみることにした。 「――撩ちゃんにはいろいろお世話になってるからねぇ」 そう言ってようやく小母さんは『雪乃寒椿』を譲ってくれた、しかも定価で。 そういや撩は、うちではビールかバーボンくらいしか口にしていなかったような気がする。もちろん余所でそれ以上飲んできているんだろうけど(外で飲むと高くつくんだから、その分家で飲んでくれればいいものを)、あんまり日本酒というのは思いつかない。酒好きってお酒だったらなんだっていいのかと思っていたんだけど…… お返しなんて最初から期待していなかった。それはあたしの恋心と同じ、 そんなことはおくびにも出さず3月14日。もうすでに伸びてきた日も傾きかけてきた。これまでプレゼントのプの字も出てきてはいない。このまま一日が終わるのか、と意に反して少々がっかりもしていた頃。 「あ、香。今日、俺、夕飯要らないから」 いつものように飲みに行くつもりらしい。まぁ今年も歌舞伎町の綺麗処からたくさん頂いていたのだから、その挨拶には伺わないと。といっても、あいつがお返しの品を買ってきた痕跡は皆無だった。 「って撩、まさか手ぶらで行く気かよ」 ――呆れた。たとえ義理でもそれなりにお返しを配るのは人としての礼儀だろう。あたしだって貰ったチョコレートの分は毎年ホワイトデーのお菓子を贈ったものだ。なのに、このバカときたら……当然、あたしへのお返しも無しだろう。だが、ここまでのバカだと知れば諦めもつくというもの。まずは一人分の夕飯を作る前に、この憤りを鎮めようと一息つきたかった。なのに、 「あっ、無い!」 空になっていたのだ、コーヒー豆が。あいつは能書き関係なしにいつも豆を多めに挽く。スプーンなんて使わずに目分量だ。だから気がつけばあっという間に豆が無くなってしまう。 台所の補充はあたしの仕事、裏の仕事に立ち入らせてもらえない自分にとってここはあたしだけの「城」だった。その管理すら行き届いていないとは……ましてコーヒーは撩も愛飲するもの。その在庫は相棒としてしっかり気を配らなければならなかった。それすらできていないなんてパートナー失格、ホワイトデーのお返しどころの話ではなかった。 「コーヒー豆か?買っといてやったぞ」 ほれ、流しの足元と言われたとおり、そこには無造作にビニール袋が置かれていた。その中にはいつもの豆のパッケージ。どうやらキャンペーン中らしく、小さな包みがついていた。 普段、撩は買い物をしない。家にあるお酒が無くなってもあたしにそう言うだけだ。家に無ければ外に飲みに行けばいいだけのこと。そのあいつが、自分から在庫補充だなんて今までなかったこと、どういう風の吹き回しだか……まさか? その後、あいつは素知らぬ顔でアパートを後にし、あたしは一人で夕食をとった。撩が帰ってきたのはもうホワイトデーも終わってしまった後のこと。もちろんプレゼントなんて貰えなかった、あのコーヒー豆以外は。 さすがにあのときの包みを後生大事に取ってたりはしていない、あたしもそこまで乙女じゃないし。ただ、撩が絶対に使わないであろうおまけのスプーンはこっそり手元にしまってある。季節を意識したのか、頭にハートのついたスプーンを。 今年のイベントネタ第3弾、ホワイトデーにして
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