相棒より 愛をこめて

とまぁ、今年も（もっぱら夜のお姐さま方から）頂戴した『戦利品』がうず高くテーブルの上に鎮座ましましている。ちゃんと数えたわけではないが、そもそもはっきり覚えているわけでもないがこの様子では昨年越えは確実だろう。他人に勝つのも大事ではあるが、まず過去の自分に優らなければならない。そういう点でも充分満足できる結果ではあるのだが――今の俺の心のうちにほの暗い影を落としているのは、チョコの山とは別に置かれた、丁寧にラッピングされた――ってむしろ熨斗じゃねぇか。

幻の地酒と呼ばれ、市場では定価以上にとんでもないプレミアがつくという北陸の銘酒『雪乃寒椿』。某美食漫画でもあのクソオヤジとよく似た名前のジジイがとやかく言っていたとか言わなかったとか。それが目の前に今どどんと腰を据えているのだ。
まさに贈り物としてはこの上ない品ではあるが、いくら歌舞伎町の綺麗どころでも、たとえ義理だとしてもこんなものをよこさないはずだ。だがそれを――おそらく本命に限りなく近い義理として――贈ってよこしたのだ、あいつは。

そういえば複数の情報屋から、旨い酒を知らないかとあいつが方々で訊いて回っていたということを聞いていた。そして、それがどこで手に入るかということも。
しかも、噂によればあの歌舞伎町名物の酒屋の強つくババァがどんな値を申し出ても絶対に売らなかったという幻の一本を、なぜかあいつが手に入れたとか。
さすがにいくらだかは俺も知る由はないが、ああ見えて「人たらし」の才能があるらしい、香には。

でもさぁ――確かに俺は酒が好きだ。それはこの１年近くほぼ一緒に暮らしているあいつもよーく判っているはずだ。ついでに、甘いものをあまり好んで口にしないということも。だとすれば何を贈れば喜んで受け取ってもらえるかと無い知恵を絞って考えた結果、ストレートに一升瓶をにしたというのは少々短絡的かもしれないが、妥当な判断だといえよう。けれども――バレンタインデーだぜ？だったらブランデー入りのチョコレートボンボンとか、他に手はあるだろう――と考えて、あることに気がついた。
昨年ももちろん（もっぱら夜のお姐さま方から）チョコレートをたんまりと頂いたわけなのだが、それは当然ながら、実際食べることを考えるとそれだけで胸やけを起こしそうな数量だった。その「黒い悪魔」をどうやって処分していたかというと――

「撩、食わないんだったらこれ貰っていっていいか？」
「あー、全部持ってけ。って槇ちゃん、そんなにチョコ好きだったっけ？」
「いや、うちに甘いものに眼のないのが一人いるからな」

ということでまだ見ぬ（でも実は一度逢っていた）相棒の妹がおそらく全部食い尽くしてしまっていたのだ。しかも、その前年も、たぶんその前の年も。となればボンボンごときでは俺が手に取らないというのも総て承知の上か。

相手が一番喜んでくれるものを考えに考え抜いて、それをあちこち探し回ってようやく手に入れて、贈る。贈られる側にしてみればこれほどプレゼント冥利に尽きるものはないだろう。だが――それが本当に俺の好みに100％合致しているのであれば。
『雪乃寒椿』だって、酒に弱いあいつでも知っている、ある意味ブランド銘酒だから選んだのだろう。でも「水のようにすっきりした」というのは正直あまり好きではない。
というかそんなんだったら酒を飲む意味がないというか。
それよりは「酒だーっ」ていうガツンと来るやつの方が好みだったりする。
そもそも、日本酒自体それほど飲む方ではないというか、ただ単に飲み慣れていないだけなのかもしれないが何か独特っていうか……

それでも、まさかそんなことを面と向かって口にすることもできない。今もこの瞬間、あいつのどこかほくほくとした嬉しげな笑顔が瓶の向こうに浮かんでは消える。
妙齢のくせに、今日この日に大の男に酒を贈ってよこすというとんでもないセンスの俺の新しい相棒にして元相棒の「忘れ形見」、一応は同居人で口煩い綱紀粛正役で小生意気だがどこか放っとけない「弟」――妹、にしとくか、今日くらいは。
普段なら思ったことははっきり言うのが俺の主義だが、香にだけは当てはまりそうにない。言っても怒ることはないだろうし、まさか泣きはしないだろうが、目に見えて機嫌を曲げられても俺としても明日から気まずいというか……こんなことも生まれて初めてなのだ。

なぁ、これ、いったいどうすりゃいいんだよ？

ということで2012-13イベントシーズン第３弾、バレンタインネタでございます。
冴羽商事の2/14といえば、香ちゃんがせっせと手作りチョコを
海ちゃんや情報屋たちに配る、というのが年中行事になっているとは思いますが
まだこの頃はそういう方たちとのお付き合いも無かったかと。
だからといってこのプレゼント選びはどうかと【苦笑】
昨年まではアニキに手製のものを贈っていたんでしょうが
撩がそれを喜んでくれるとは思えなかっただろうし……
いや、ちゃんとヤツも喜んでくれますから！

City Hunter