My Funny Anniversary |
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もうこっちに越してきて一年近く経つというのにまだ整理していない荷物がある。 必要なものが入っているわけじゃない、というのもあるけれども、開けてしまったら昔を――アニキがいた頃を思い出してしまって今が切なくなってしまうから、というのもあるのかもしれない。でも、いつまで経っても引っ越し直後のように段ボール箱が床に転がっているのも見栄えが悪いので、思い切ってガムテープの封を開けたのは、桜前線も北上し春めいてきたある晴れた日のこと。 「あーっ、懐かしー!」 小さい頃からのアルバムやまだそれに貼っていない写真に交じって出てきたのは、撩を盗み撮りしたときのもの。オートデート機能がその日を昭和57年3月26日だと刻んでいた。 「うそ、そうだったんだ……」 なにしろ4年も前のことだから日付までは覚えていなかった。それから数年後、あいつに男に間違えられた挙句、ブティックで人身売買組織潰しの囮に使われたのは一年前の今日だとはっきり覚えているのだけど。 それから一年後。別にあたしは記念日なんてのをこまごまと祝うタイプじゃない。 だから別にあたしは撩に期待したりはしていなかった。どういう巡り合わせかは知らないけれど、初めて撩とあたしが出逢って、そして再会した日であるにもかかわらず。ただ、自分だけが心の中で祝えればそれでよかった。 そしていつもと同じように寝汚い撩を叩き起こし、いつものように朝食(兼あいつの昼食)を作り、二人分の洗濯物を洗って干し、部屋を掃除して伝言板を確認し、スーパーに買い物に行く。その間、撩からは記念日の「き」の字も出てこなかった。 「そうだ、どうせだったら夕飯も奮発しちゃおっか」 そう思ってスーパーであれこれ買い込んできたのだ。幸いにもそれができるだけの経済的余裕が今はあった。いつもより上等なお刺身盛り合わせに、やっぱり手作り唐揚げは欠かせないよな。撩も好きみたいだし。それに、ポテトサラダは手間がかかるけれども、だからこそこういうときに作らないと。 「あれ、撩どこ行くんだよ」 唐揚げが半分ほど揚がった頃、いつものようにそう事前通告なしにふらりと出て行ってしまった。後に残されたのは衣をつけた残り半分の若鶏もも肉と、鍋の中で火の通りつつあるジャガイモと、冷蔵庫の中のお刺身盛り合わせとその他ご馳走の予備軍たち、そして台所にぽつねんと立ち尽くすあたし。 「まぁ、しょうがないよな」 別にあいつに祝ってくれと言ったわけじゃないし、それを期待していたわけでもない。ただあたしが勝手にいつもより豪勢な夕飯をこしらえていただけだ。 「だったら最後までオレ一人でお祝いしちまおうっと」 お酒も勝手に空けちゃうもんねー。昨年の今頃は全然口にしていなかったけれど、この一年でずいぶん撩に鍛えられたものだ。もっとも、相棒としてそれ以外にも鍛えてほしいのはやまやまなのだけれど。 かくして、テーブル一面に手の込んだメニューの並ぶ中、それとは不似合いな一人パーティーが始まった。まだまだ決してアルコールの強くないあたしが、それでも一瓶空ける頃には――お酒にはやはり人の心を素直にする作用があるのだろう、もう時計の針が0時を回りつつあったが、いつもは押し隠しているであろう不安が今日はやけに意識に上ってきていた。 いつしか泣いていることに気がついたのは、ふらついた足音が聞こえてきたときだった。相変わらずの千鳥足、あれで6階まで上がってこられるのが不思議なほど。 「かおりちゃ〜ん、たっだい――」 気がつけばいつものように仁王立ちでまくし立てていた。それに気圧されて小さくなる一方の撩もいつものこと。でも今夜は、そんなやりとりをどこか遠くから眺めているもう一人の自分がいるような気がした。 「ったく、さっさと寝ろって言ってるだろ。ニキビが余計増えるぞ」 そう答えると撩はそれが意外だったのか、まるで鳩が豆鉄砲を食らったようにぽかんとしていた。その顔っていったら、アニキにも見せてやりたかったくらいだぜ。 「じゃあな、オレもう下行って寝るから。 そんないつもどおりのご挨拶で今日も終わろうとしている。4年前の今日、二人が初めて出逢って、そして一年前に再会した記念すべき今日が、いつもどおり、つつがなく。そして時計は次の記念日へと回り始めていた。その「次」が来ることを祈りながら。 ということで今年のイベントネタ第5弾、
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