blanc et noir


普段はカフェイン中毒というくらい日に何倍もコーヒーを愛飲している俺たちだが
冬になるとあいつの場合、必ずしもそうとはいえなくなる。
今日もほら、帰ってくるなりいつもとは違う甘ったるい匂いが鼻腔をくすぐる。
「冬はやっぱりココアよねぇ」なんて、ずいぶん前に色黒のTV司会者の口車に乗せられたのか
店で出るのと比べればさらさらとした、もちろん生クリームも乗っていないそれを
ふぅふぅと息を吹きかけながらソファに丸まってマグカップを抱えているのだ。
もちろん俺は365日ビターなブラックコーヒーなのだが。

真冬の寒さに早々とナンパを切り上げてきたが、香も伝言板からCat'sにも寄らずにまっすぐ帰ってきたようだ。
いつものようにソファで膝を抱えるようにしてカップを両手に包みこんでいたのだが、

「なんか旨そうなもん飲んでんじゃねぇの?」

と覗き込んだ中身は、真っ白な水面に琥珀色のキャラメルシロップ
――カクテル用に常備してあるもの――で
まるで街中のカフェのように格子を描いていた。

「まったく、ホットミルクなんか飲んじゃって
お子様だね、香ちゃんは」
「違うわよ」

そう、飲めと言わんばかりにカップを鼻先に押し当ててきた。
そんなの、飲まずとも匂いだけで判る。にしてもただの牛乳とキャラメル以上に甘ったるい。

「――ココアか、これ?」
「そ。最近流行ってて品切れ続出なんだって」

で、その波に乗り遅れまいとわざわざ買ってきたわけか。
にしても、甘い。いつものココア色のココア以上に。
言うなればそれは、普通のチョコレートとホワイトチョコの差か。
だが、そんじょそこらのホワイトチョコのような安っぽい甘ったるさではない。
まるで高級ショコラティエの手によるもののような上品な甘さ――って、そんなん俺も食ったことはねぇが。
一方の香は寒い部屋の中、暖かさと甘みを同時に補給できてご満悦といったところだ
――自分一人でほっこりしやがって、と氷水を差したくなるのは天邪鬼か。

「俺にはなんかねぇの?」

と甘ったれても「コーヒーぐらい自分で淹れなさい!」と
なぜかコーヒーミルが飛んでくるのが関の山だが、今日の香は違った。

「撩にも用意してたのよ」

そういそいそと立ち上がってキッチンへと向かった。
すぐさまリビングの俺のもとにも馥郁とした匂いが届いてくる。

「はい、お待ちどうさま」

あいつが運んできた色違いのマグカップの中には、深いマホガニー色の――

「ココアじゃねぇか、これも」
「まぁ、飲んでみてって」

確かに普通のあいつの安物ココアより色は濃いが――
さっきのがホワイトチョコなら、こっちはビター、いや、混じりっけなしのカカオのほろ苦さ。
これなら俺も飲めなくもない、か。

「こっちは撩が好きそうだなぁって、買ってきたの」

と、ココアと知っても苦情の出ない俺に向かって嬉しそうに話しかけた。
まぁ、普通のココアだったら黙って押し返していたところだが。

「ねぇ、おいしい?」

なんて、再び自分のカップを抱え込んで笑いかける香に、胸の奥がちくりと疼いた。
あいつのカップの中身は純白、だが俺のは深い闇の色。
嗜好の違いと言ってしまえばそれまでだが、まるでそれが俺たちを隔てる決定的な差のように思えてしまった。

「ねぇ、リョオ!」

何とかして答えを引き出そうとするが、あまりにも無反応な俺に諦めて再びカップに口をつけたそのとき――
一瞬の隙を俺は見逃さなかった。
ビターなココアを軽く口に含むと、まだ飲み干す前の香に口づけた。
強引に口唇の間から舌をねじ込めば、白いココアと黒いココアが二人の口腔内で一つに溶け合う。
それをさらに掻き混ぜるように激しく舌を絡ませた。

「――ちょっとぉ、リョオっ!」

舌だけで相手に飲み込ませようとするなんて朝飯前。
不意に軽く2口分のココアを一気飲みさせられた香はへそを曲げて当然だった。

「な、旨かっただろ?」

それでも口唇を尖らせているのは、そうではなかったという無言のアピール。
配合のバランスがまだまだ課題か……。

「キスだけで充分よ///」

そう頬を赤く染めながら、三たび香は白いココアを口にする。
そんなあいつを横目で見ながら、俺も黒いココアを口に含んだ。
ほぼ同時に飲み込み、余韻が未だ口に残る中、どちらともなく口唇を寄せ合った。

香の甘さに僅かな苦み
俺の苦さに僅かな甘み

育ちも性格も趣味もまるで違う俺たちにとって、それがベストバランスなのだろう。
ただ甘いだけ、ただ苦いだけの人生ではなく。

お互いの味を存分に堪能しながらも名残惜しそうに口唇を離すと、それぞれのカップに口をつけた。
再びお互いを味わうために。


すいません、店主ネ○レの回し者ではありません【苦笑】
たまたまテレビでやっていたのを見て、それぞれ
リョウと香が好きそうだなぁと。
ってバレンタイン直接関係ないし【爆】
でもまぁ、チョコレートというかカカオがらみの甘々というわけで
店主から皆様へのバレンタインチョコ代わりとして、ご笑覧くださいませ。
ということでお返しも……期待して、いいでしょうか?

background by

City Hunter