Hot Wind makes me....

「ミック、なんでてめぇがここにいるんだよ」
「いいだろ?こういうのは大人数の方が盛り上がるもんだしw」

毎年夏になると二人で海に行くものだと、カオリからCat'sで聞き出したのは1週間ほど前のこと。『相棒以上恋人未満』の素っ気ない関係だと思ったら、ずいぶんとラヴラヴしてるんじゃないか。するとその場に居合わせたマスター夫妻も巻き込み、さらにはカズエから教授のツテでとあるプライヴェートビーチまで紹介してもらい、今年はおなじみのメンツでということになったのだ。どうせだったらみんなで行った方が楽しいからと、ファルコンのランドクルーザーにギリギリまで乗り込んで。カオリも「遠足みたい♪」と車内で笑顔を浮かべていた。

「あ、オマエ助手席にカオリがいなくて淋しかったんだろ♪」
「へっ、当てにならないナビがいなくてせいせいしたわ!」

リョウはというといつものクーパー。オレはもちろんカオリと一緒。もっとも、お目付け役としてカズエもランクルに同乗だったが、そんなに信用ないのかねぇ。

「だったらレイカでもカスミでも乗せればよかったじゃないか。
カノジョたちなら喜んでオトモしたぜ」
それでも一人で来たというのは、よほど助手席というSanctuary(聖域)を汚されたくなかったのか。

プライヴェートビーチといえば聞こえはいいものの、海の家も何もないただの砂浜だけだったらどうしようと女性陣らはヤキモキしていたようだ、サイワイにも近くに小さなコテージがあり、そこの部屋を男女の更衣室代わりにすることで問題は解消した。しかもそこにはデッキチェアにビーチパラソルといった夏のビーチに欠かせない小道具までちゃんと揃っていた。そこにオレたち二人は寝転がって、雄大に広がる水平線をバックグラウンドに波と戯れるfemale friendを眺めていた。いつも見慣れているはずのカノジョたちだが、こうして水着姿となるとやはり見違えてしまうもの。隣のタネウマ野郎もニヤケ面をレイバン隠しているに違いない。

それにしても――コレでビーチでのナンパは連敗のしっぱなしというのは、よほどモッコリ根性が顔に出ていたか口説き文句を間違えたか、その両方か。ヤツの格好は当たり障りのないトランクスタイプの海パン一丁だが、腕を頭の後ろに組んで寝そべっているそのポーズは、ボディビルダー並みの二の腕と大胸筋をこれでもかと誇示しているかのようだ。オレには生憎そっちの趣味はないが、もしそうだとしたら女ならずともホイホイついて行ってしまうだろう。それとも、この国ではマッチョの需要はないということなのか。
オレはというと血の滲むようなリハビリのおかげで見た目だけならかつてに戻りつつあった。ただ、両前腕から広がるケロイドのせいで素肌の上にヨットパーカをはおらなければならないのだが。それだって、アカラサマに胸板が剥き出しになっているよりは、チラリズムの方がかえってセクシーだろ?

今回サエコは相変わらずのハードワークで、妹のユカはカキコウシュウとやらで来られなかったが(実は接近禁止を厳命されているらしいというのは、もう一人の姉のレイカの弁だ)カノジョたち以外はいつものメンバーが集まっていた。
ヤマトナデシコはツツマシヤカで、水着も主にワンピースタイプばかりだったが、最近ではビキニスタイルも珍しくなくなって、個人的には喜ばしいかぎりだ。もっとも、我が最愛のカズエは「プライベートビーチといっても、なんだか恥ずかしいわ」と、淡いアクアグリーンにペイズリーめいた花柄があしらわれている以外はいたってシンプルなワンピース姿だ。その淑やかさがカノジョの美点でもあるのだが。
レイカはさすがに大胆に、黒い無地のビキニ。88のCカップともなれば胸元の大きく開いたホルタ―ネックがサマになる。自分の魅せ方をよく判っている証拠だ。
カスミは学生らしく初々しい、ブルーのギンガムチェックのワンピース、なのだが後ろから見ればビキニという、最近流行りのモノキニというやつだ。もちろんカッティングはヒップラインもキレイなハイレッグ、「空飛ぶオシリ」はまだまだ健在のようだ。
ミキはというと意外にもブラックに限りなく近いブルーの地に、小ぶりのヒマワリのような花をちりばめたビキニ。いくらカノジョも海外が長いとはいえ、あのアタマの固いニッポンダンジなファルコンがとやかく言わないのか不思議なくらいだ。目だって完全に失明したわけではないというのに。だが、そんなことはおかまいなしに濃紺の水着は健康的な肌の色と均整のとれたプロポーション、そしてそれ以上に――さすが元・女コマンド、控えめながら6パックに割れた腹筋をも見せつけるようだった。それと同時にアラワになるのは、カノジョの過去を物語る無数の傷跡。それでも、ここがプライヴェートビーチだからか、女の傷は勲章とばかりに堂々とした態度には、火傷の跡を隠そうとする自分が小さく思えてしまうほどだ。

それ以上に意外だったのは――まさか、カオリのビキニ姿をこの目で見られるとはっ!! 赤レンガ色にマーガレットのようなイノセントな白い花が散らされたデザインは、夏だというのにまるで雪のようなカノジョの肌によく似合っていた。そして、決して胸元が大きく刳られているわけでもないのにくっきりと刻まれた胸の谷間――どちらかといえば快活なイメージだからこそ普段は気づかないが、こうしてみるとかなりグラマーな方ではないだろうか。それでもそんなナイスバディとは裏腹に、海に来たら泳ぐものだとばかりに無邪気に波と戯れているのだから、もしかしたらポロリと眼福にありつけるのではと必死に目で追っていたが、気づけば太陽はビーチの真上に差し掛かってきた。
そろそろランチの時間だ。ファルコンたちがわざわざBBQグリルをレンタルしてきたのだ。材料の肉と新鮮な野菜とシーフードは途中のマーケットで調達済みだ。向こうではBBQはオトコの料理、Dad直伝の特製ソースでいいトコを見せないと。そうおもむろにデッキチェアから立ち上がり、簡易キッチンとなったターフに向かおうとすると、ビーチから一人のマーメイドが駆け寄ってきた。

「Hi, Kaori! What's the matter(どうしたんだい)?」
「お昼だったら手伝おうかなぁって」
「No problem! 向こうでミンナと遊んでてもかまわないさ」

波をかぶった髪はいつもの奔放さは少しだけなりを潜め、白い肌は一層つややかな光沢を放っていた。ちらほらとついた砂粒も正午近くの日差しを乱反射させる。思わず音を立てて息を呑んでしまいそうになるほどだが、驚いたのはその素肌がまっさらなままだったことだ。
ファルコンとミキの結婚式で二人もまた想いを確かめ合ったのは昨年の秋のこと。あれから二人は目に見えた進展は無いってことか。あのpervert(色キチガイ)のリョウのこと、一線を越えたら一晩たりともカオリを離したりはしないだろうから。まったく、この半年の間いったい何をグズグズしてたっていうんだ。その間にもオレ以外のトンビにアブラアゲを攫われてしまいかねないというのに。
噂のlazy guy(怠け者)は優雅に傍らのクーラーボックスから何本目かのバドワイザーを開けているところだった。

「じゃあ手伝いが必要だったら呼んでね!」

と、再び渚に向かって駆け出すカノジョの左足に、きらりと光る小さな銀色。

「Hey, what's that(それは)?」
「ああ、これ?」

そう言うとカオリはオレにも見やすいように、左手で左の足首を掴んで片足立ちになった。そこに輝くのは小さな銀色のアンクレット。見ればアルファベットらしいチャームがキラキラと揺れる。

「この間、水着買いにいったときに撩に買ってもらったの」
「そのとき、必ず左に付けろって言われた?」
「ええ、そうだけど」

アンクレットの由来は奴隷の足枷、つまりは所有物のシルシということだ。これが右の足首となると「浮気相手募集中」という全く正反対の意味になる。オレとしてはそっちの方がアリガタイのだが――もっとも、このウブなsweatheartはそんなこととはツユ知らず、愛しのリョウの言いつけどおりに身につけているに過ぎないのだろう。
だが、気になることがもう一つ。だとしたらそこに揺れるチャームはヤツのイニシャルの“R”でなければならないのだが、カノジョの足首に光るのはなぜか、おおよそ日本人のイニシャルとは程遠い“P”だった。

「どうせ売れ残ってるんだろって撩、お店の人に値切り倒してたけど……」

I got it(ひらめいた)!前に聞いたことがあったが、ヤツの前歴は中米の左翼ゲリラ。だとしたらマルクス・レーニンとともにロシア語は必須科目だったはずだ。つまりカノジョの左足首にきらめくのは、PはPでもアルファベットではなく、キリル文字の『エル』、英語でいうところのRだ。
ったく、とんだフェイントをかませてくれたものだ。カオリ自身も知らぬ間にしっかりマーキング済みってことなのだから。これならたとえ右に付けようと意味がない。それどころか、アイツのポーカーフェイスも納得だ。こんなにオレがカオリと――しかもビキニ姿の――親しげに話しているにもかかわらず、こちらをチラリとも見ようとしないのだ。
それでもオレのセンサーが告げている、カノジョはまだヴァージンだと。これだけ既成事実はガチガチに固めてあっても肝心の一線が越えられないなんてとんだチキン野郎なのだが、それでもオレの入り込む隙間は1ミクロンもあるはずもなく、

「Stop the season in the suuuun〜♪」

と、ランクルの中でかかっていた、カオリの持ってきたカセットの歌を口ずさむのが精いっぱいだった。

というわけで2012年残暑お見舞い第1弾です。
毎年恒例のTUBEネタではありますが
曲ネタやるなら全曲要らぬ、巧い一節あればいい【笑】
さて、どの曲かお判りでしょうか?おそらくCHをリアルタイムでご存知の方なら
まさに同じ時期に耳にした夏のヒット曲かと思いますが……
あ、ミックのヒントは当てにはなりませんよ【苦笑】

ということで、まだまだ暑さは厳しいですがご自愛くださいませ(^^)


City Hunter