愛情100%

「ねぇ、撩」

ぶっきらぼうに突き出された右手、の先にはいかにも手製のラッピング。

「おっ、おぅ」

思わずこっちも仏頂面を装って受け取る。だがあいつはこの場を離れようとしない。
ただ、じぃっとさっき手渡したばかりの包みを未練がましく見つめていた。
――今すぐ開けろということか。無言の圧力の命じるままに、がさごそと手荒に青いリボンを解いた。口がスカラップに飾り切りされた華奢な小さな紙袋をひっくり返してみれば、何個かの小さなチョコレートトリュフ。
香の眼の色がわずかに変わったのが判った。
期待されるままに口に一粒放り込む。

――にがっ!!!

だがあいつの表情は、湧き上がる嬉色を懸命にポーカーフェイスで押さえ込もうとしていた。それは決して悪意ある笑みではなかった。むしろ、純然たる喜び。

「ほら、あんたって甘いもの苦手じゃない。
だから今年はカカオ100%で作ってみたの」

ああ、道理で――。そうは言いながらも香の表情は、表向き
「べっ、別に嫌なら無理して食べなくてもいいんだからね!」
と雄弁に告げている。逆に、そういうツンデレな反応をされてしまった方が始末に困るというもの。思わずこっちも、文字どおりの苦笑いだ。

そういえば前にカカオ100%のチョコを貰ったことがある。でもそれはどこかの高級ショコラティエによるもの、原料もおそらく最高級のものを厳選しているのだろう。
香のような素人が、あいつに手の届くだけの材料で同じ真似をしようとすれば結果はこうなるというわけで、でもそこのところをあいつはいまいちよく理解していないようだ。これじゃ今飲んでいるブラックコーヒーの方がまだ甘いくらいだ。
ちなみに愛飲しているのはキャッツ特製のフレンチロースト、カフェオレなどミルクを入れてようやくちょうどいいというほどの苦味で、それをいつもストレートで味わっているのだが。

でも、きっと香のことだ。俺が気に入ってくれると思ってそんな愚挙に及んだのだろう。表面上は気のないそぶりをしていても、おそらく昨日から台所中をひっくり返すような騒ぎでこのトリュフを製作したに違いない。普段の料理は完璧にこなしても、スイーツの類はあまり作る方ではないのだ。
その行為、その好意だけでも無駄にしたくはなかった。
今どきバレンタインなんてのは関係なしに、女からも自分の想いを自由に伝えられる時代になった。だが香にとっては今も2月14日だけが、365日で唯一素直になれる日なのだから。

「おまぁ、なんかいい匂いがする」
「あれっ、そう?さっきまで義理用のクッキー焼いてたから」

それかなぁ、という言葉尻を言いきる前に抱きよせて口唇を重ねた。
アイスボックスクッキーはスイートポテトと並ぶあいつの数少ない得意スイーツで、こればかりはレシピを見ずに作れるという。まぁ、今はそんな話はどうでもいいが。

甘い――それはエプロンに染みついたミルクチョコレートとココアの匂いではなく、香自身の口唇の味。それをもっと堪能したくて、思わず舌を潜り込ませる。
途端に嫌な顔をしたのは、俺の舌に残ったカカオ100%の苦味のせいだろう。
しょうがないだろう、自業自得だ。それよりももっと苦いモノだって悦んで受け入れているだろう?

  チョコの苦みは恋の苦み
  キスの甘さは愛の甘さ

だったらカカオの純度はあいつの愛情表現ってことか?

口直しのキスを思う存分味わいつくすと、二人の間につぅと細い銀色の糸が伝う。

「香、その顔で義理チョコ配りに行く気か?」
「えっ、えぇっ!?」

深いキスに翻弄されていたあいつの頬はうっとりと上気していた。
そんな顔、他の男に見せられるはずもない。

「でっ、でもクッキー……」
「んなもん明日やりゃあいい!」

それでもまだまだ甘さは足りない、こうなったら香を全身で堪能しなければならないほどに。

「ベッドとここと、どっちがいいか?」

親切にも選択肢を提示してから、再度香の口唇に喰らいついた。


20,000hitイベントキリリク第3弾、ということでパールさまから
「撩のためにわざわざ苦いチョコレートを作ったカオリン、なのに……」
(ということでよろしいでしょうか?)とのリクを頂きました。
ですが、確か以前に香からカカオ100%のチョコを貰って
それは美味しそうに食べているんですよねぇ、うちの撩。
ということで設定にあたふた【汗】
しかも、ご注文が「前半はこの幸せモンチクショウってくらいでww
後半はハイハイどうぞみたいな感じで。
たまには激甘警報18禁発令中でお願いします」

とのことだったんですが、前半が思いっきりツンデレカオリン……
でも、尻尾ふりふり犬っころというよりは
態度は素っ気なくても尻尾だけが甘えているにゃんこなのが
店主のイメージする香嬢なもので。

ということで、言い訳ばかり長くなってしまいましたが
ぱーるさま、こんなんでよろしかったでしょうか?
リク主さまにもご多幸あらんことを。

background by

City Hunter