Summer Greeting |
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相変わらず収穫のなかったナンパをさっさと切り上げてきた午後。 香は伝言板を確認しに行ったきりまだ戻っていないようだ。おおかた、Cat'sで美樹ちゃんにグチをこぼしているのだろう。1階の郵便受けにはダイレクトメールやら直接突っ込まれたAVのビラなどが入ったままになっていた。 そんな、ややもすれば封も開けないまままとめて捨てられそうな束の中から、一枚の絵はがきを見つけ出した。青い海に白い砂浜、ボードウォークと古びた観覧車。 「コニーアイランドか・・・」 そしてそんな海辺の風景に、白い字で「How's going?」とだけ書いてあった。後ろを見ても宛名だけで差出人の名前は無い。だが、そのどこか幼さの残る筆跡はすぐに誰のものか判った。 「――よく遊びに行ったよな、ソニアと」 彼女とケニーの父娘は俺にとって初めて普通の家庭というものを教えてくれた恩人だった。ケニーはまだ若く自堕落な生活をしがちだった俺の面倒を口煩いほどによく見てくれたし、ソニアはそんな俺を――すでにマリィーと組んで裏の世界でそれなりに名前を売っていた俺を、ごく当たり前に迎えてくれた。彼らは俺を家族の一員として受け入れてくれた。だから、幼いあいつは俺にとって年の離れた妹みたいなものだった。 ――その日も、ごく当たり前のように二人の暮らす家へと上がり込んだ。寝ぐらにいてもまともな食いものは無いし、飯をおごってくれる女の当てもない。ここにいけば何かにありつけるだろうという、そんな考えだった。 「ケニー、ソニア、いるのか?」 ダイニングテーブルの置かれていたキッチンに、ソニアが一人でぽつんと座っていた。 「なんだ、いたのか。ケニーは?」 俺はキッチンで食い物をあさっていた。とりあえず有りあわせの物でサンドイッチでも作るか。他人の家とはいえそこは相棒の家、勝手に材料を拝借することにした。だが、見ればソニアは浮かない顔をしていた。 「おい、どうしたんだよソニア。美人が台無しだぞ」 冗談のつもりだった。だがその顔が図星と雄弁に物語っていた。 「リョウこそどうしたのよ。今日はキャシーとデートのはずだったんじゃないの?」 グサ、と痛いところを突いてきた。もちろんそれがうまくいってたら今ここで相棒の家に上がり込んで勝手にサンドイッチなんか作っていない。つまりは、このキッチンにいるのは二人ともふられた者同士ってわけだ。 「じゃあ、海でも見に行くか」 出来上がったサンドイッチを切り分けると、それを紙で包み、冷蔵庫からバドワイザーを何本か拝借して、それと一緒に紙袋に入れた。 コニーアイランドはNYのブルックリンにある、ニューヨーカーにとって一番身近なビーチだ。すぐそばには遊園地もあるから、ソニアを連れて何度か行ったことがある。マンハッタンから地下鉄で1時間ほどだが、夜遅くに小さな子供を連れて乗れるほどこの当時は治安はよくなかった。おんぼろピックアップの助手席にソニアを乗せてエンジンをかけた。 夜のコニーアイランドはまだシーズンには早いということもあって人もまばらだった。遊園地からは離れた静かなビーチに腰を下ろすと、ようやくサンドイッチに手を伸ばした。何重にも重ねたそれをビールで流し込む。だが、自分のむしゃむしゃという咀嚼音に交じって、隣からは小さなすすり泣く声が聞こえてきた。 「・・・飲むか?」 そんな俺の視線に気がついたのだろう。ソニアは俺の顔と、そして口元の缶ビールをじっと見ていた。一晩中飲み明かすっていうのも傷心にはいい薬だろう。だがそれはあくまで大人向けの薬だ。でも俺は子供向けの薬など知らなかった。 「まだ子供には早いって」 だが彼女はビールを俺に返そうとはしなかった。両手でそれを抱えると、ぐびぐびと喉を鳴らしながら残りを一気に飲み干した。さすがにぐらりと頭がふらついたが、しっかりした手つきで俺に空き缶を突き返してきた。 ――もしかしたら本当に初恋ってやつだったのかもしれない。 俺くらいになればキャシーがダメでも次はスーザンといちいち落ち込むこともなく取っ換え引っ換えできるのだが、初めての相手は未来永劫一人だけだ。だから好きになれば本気で恋するし、振られたら本気で悲しがる、バドワイザーを半分一気飲みしないとやっていられないくらいに。 だが、それはさすがに11歳の少女にとっては過ぎた量だった。そのままあっという間に酔いつぶれてしまったのだから。 ――たった一枚のカードがそんなことを思い出させてくれた。 思えばあのとき、まともに言葉を交わすことなく別れてしまった。仕方がない、俺は彼女の父親を、たとえ決闘とはいえ、この手にかけたのだから。 終わりよければ総てよし、という言葉に則れば、ソニアやケニーと暮らした日々は幸福なものではなかったのかもしれない。だがあの頃は俺が思うほど不幸なものではなかったんじゃないか。そしてそれを俺はそんな小さな幸福ごと記憶の奥底に押し込めてしまったんじゃないだろうか? 勉強部屋のデスクにポストカードを立てかけた。ここなら香もほとんど出入りしない。ペン立てから一本のボールペンを取り出すと、返事の文面を考え始めた。
昨年の『ホタル』以来 すっかり暑中見舞い=TUBEの新曲が定着しつつありますね【苦笑】 今年のシングルはいかにもTUBEらしい定番の爽やかなナンバーです。 これを機にぜひとも聴いてみてください♪ ただ、昨年の『蛍』とどっちが上かというと・・・ 店主としては圧倒的に『蛍』に軍配を上げてしまいますけどね。
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