この胸いっぱいの愛を
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「はぁ・・・どぉしよ」
Cat'sのいつものカウンター席であたしは大きな溜息をついていた。 「香さん、一体どうしたっていうの?」 今日は3月14日。 「あ、ホワイトデーのお返しが心配なんでしょ。 やはりいつもの席に座っていた麗香さんが茶々を入れる。 「確かに。何らかの報復攻撃に出てこないとも限らないしね、冴羽さん」 違う、あたしの悩みはそんなことじゃない。
撩に優しくされるとどうしていいか判らなくなる。 だからといって撩への想いを諦めることはできなかった。 だからあたしは、見返りを求めるのをやめた。 だけど、時間は少しずつ二人の距離を縮めてくれた。そして、あいつの本心を気づかせてくれた、決してあたしだけの片想いじゃなかったと。ようやく想いが通じ合って、あのひねくれ男もだんだん素直に言葉や態度で表わしてくれるようになって・・・あたしは戸惑うようになってしまった。 最初から諦めていたから、優しい眼差しも、甘い言葉も。 臆病なのだ、多分。ずっと待ち望んでいた、でも思いもしなかった贈り物にまだ怯えている。手を伸ばせば消えてしまうんじゃないか、本当は自分が貰えるものではないんじゃないかと。だったら自分から突き返してしまえばいい、これはあたしのものじゃないと。だったら傷口はまだ浅くて済む。それは決して間違えて贈られたものじゃない、最初からあたしに宛てられたはずなのに。いくら望んでも得られなかったものだったから、手に入れた途端に不安になってしまう。 皮肉なものだ。撩への想いは、あのバカでスケベで怠け者のもっこり男に寄せる愛情はだれにも負けないはずなのに、愛されることにかけては一気に自信が無くなってしまうのだから。
「でも香さん」 美樹さんの声にネガティヴな思考が遮られた。 「たとえ冴羽さんがどう出ようと、それが彼のあるがままの気持ちなんだから。 その言葉に迷いは消えた。 そのとき、Cat’sのドアベルが鳴った。戸口とドアの隙間に身をねじ込んできたのは、ぼさぼさ頭のでかい図体。そして手には両手いっぱいの――巨大なドロップ缶。いきなり出鼻をくじかれた。ご丁寧にリボンを十字に掛けてあるけど。撩は無言で、どこか拗ねたような、照れた顔でドロップをあたしに突き出した。 「目には目を、巨大チョコには巨大ドロップをってとこね」 ギャラリーはいい気なもので、あたしの当惑をよそに高みの見物を決め込んでいる。でも、これはこれでかまわなかった。 巨大ドロップ缶を腕に抱えて蓋をこじ開けた。そこから腕を突っ込んで、引き当てたのは半透明のハッカだった。容器もでかけりゃ中身も大きい。飴玉は口に入れるとそれだけで中の半分を占めた。
そういえば昔、巨大ポッキーとか流行ってましたね。今も地域限定でありますが。
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