all's well that starts well

一月一日、新宿・花園神社。

「おまぁが『振袖姿のもっこりちゃんがいるかも』って言うから来てやったのに、
ちっともいねぇじゃねぇかよ」

と白い息と一緒に不満を吐き出しながらいやいや階段を上る。その足取りが重いのは初詣に気が進まないからだけじゃない。撩の右脚には鉛玉が埋まったままだ。

麻薬精製工場の破壊は撩だけの力で充分だった。だが、敵は思ったより馬鹿ではなかった。追い詰められた奴らの一人が撩に向けてショットガンの銃爪を引いた。そして無数の散弾が彼の脚に喰い込んだ。
腕を狙っても撩なら左手でも難なく敵に立ち向かえるだろう。だが、片脚をやられてしまえばもう片方が無事でも走るのはおろかまともに歩くことすらできなくなる。それでも撩は気力だけで奴らを壊滅に追い込んだが、あたしが辿り着いたときには立っているのがやっとの状態だった。
弾は取れるものは全部取りきった。だが総ての銃弾を摘出するには数が多すぎた。結局、残しておいても後遺症の出ない弾は撩の中に残ったままだ。

「これじゃ金属探知機に反応しちまうな」

もっとも、飛行機になんて乗る機会も無いから金属探知機になんてくぐることも無いだろうけど、と撩は笑う。
だけど、もしあたしが側についていれば、ついていっても足手まといにならないだけのパートナーであれば――撩がこんな大怪我を負うこともなかったはずだ。でも、あたしにできるのはこうやって年の初めに撩の今年一年の無事を祈ることだけだ。

混み合う参道には見知った人影があった。

「あっ、冴子さん」

新年早々いやな予感。

「どうした?特捜課のデカが雑踏警備かよ」
「人手が足りなくてね。って実のところを言えば
休みだと実家に顔出さなきゃならないじゃない。
妹にお年玉あげなきゃいけないし、
父は父で見合い写真押しつけてくるの見え見えだもの。
ところで撩はどうしたのよ。神をも恐れぬシティーハンターがまさか初詣で?」

そう、撩は神様なんか信じない。祈るくらいなら自分だけの力で運命なんかねじ曲げていく。彼の祈りが天に通じたことなどないのだから。

「しょうがねぇだろ、こいつがどうしてもって聞かないもんだから」
と、さも煩わしそうにあたしを顎で指した。

「あら、それだけ想われてるってことじゃない」
「こーんなヤツに想われても撩ちゃん全然嬉しくないもーん。
それより冴子ぉ、今年こそ溜まりに溜まったもっこりのツケ――」

神聖なる境内で何たる愚行、正真正銘神をも恐れぬもっこりバカに天罰のハンマーを下すと、あたしはひとりで神社へと急いだ。――どうせあたしの心配なんて撩には迷惑なだけだ。

「いいの、撩。この人混みじゃ香さんのこと見失っちゃうわよ」
「ってなんでお前まで一緒についてくるんだよ。仕事はいいのか?」
「いいのいいの、どうせここで一番階級が上なのはわたしだし」

それでもお賽銭を投げて(いつもは10円のところを今日は奮発して100円も出したんだから!)祈ったのは、今年一年の撩の無事だった。
あたしはどうなってもいい、一緒にいられなくても、死んだってかまわない。撩が生きてさえいてくれれば・・・。

「何を一生懸命お祈りしてたんだ?」

人混みの中でもこの男はいつも頭一つ抜け出している。

「まさか『今度の宝くじこそ一等前後賞つきで当たりますよーに』じゃねぇだろうな」
「絶対言いませんー。言ったら願いが叶わなくなるっていうもん」

見ると冴子さんが目を閉じて静かに祈りを捧げていた。その表情はいつもの撩をたぶらかす女狐からは程遠かった。

「なぁ香、おみくじでも引こうぜ」

珍しいんじゃない?占いとかも全く当てにしない撩が。

「一番運が良かったヤツが昼飯おごりな」
「あら、面白そうね」

と冴子さんは撩の罰当たりな提案に乗った。
そのまま三人揃って売り場に向かうが、撩は、

「そう、ボキ冴羽撩、ハタチ。撩ちゃんって呼んでね」

バイトの巫女さんをナンパしてるバカは無視だ。

「やった、大吉!」
「あら、『仕事運 今の仕事を続けるが吉』ですって。良かったじゃない香さん」
「冴子さんは?」
「めでたさも中くらいってとこかしら」

彼女の手の中のおみくじには『中吉』と書かれていた。

「でも『待ち人来る』ってあるじゃねぇか」

撩がその無駄にある上背を利用して肩口から覗きこむ。

「まあ今さら誰を待つって歳でもないだろうけどな」
「あら、今年こそ運命の人に出会えるかもしれないじゃない」

そうウキウキとおみくじをしまい込む冴子さんの姿を見てると複雑な気分だ。

「撩こそどうなのよ」

女二人の視線が撩の手元に集中する。そこには・・・

「大・・・凶」
「でもむしろついてるくらいよ。大吉よりめったに出ないんだから」

この神社にもあったのねぇ、という冴子さんの言葉もあたしにとっては気休めにさえならなかった。あの二文字を目にした瞬間、凍りついてしまったのだから。
――また今年も撩は不幸になる、あたしのせいで。いや、昨年以上の不幸に見舞われるに違いない、なんてったって大凶なのだから。

「そりゃそうだよなぁ、今年も一年疫病神につきまとわれるんだから」
「ちょっと、疫病神って誰のことよ」
「だって俺の不幸がお前の幸せなんだろ?
疫病神以外の何者でもないじゃないか」

その言葉で目からウロコが落ちた。そして含み笑いがこぼれる。
撩の不幸があたしの幸せなんてことはありえない。撩の身に何かがあったらあたしもまた不幸のどん底に突き落とされてしまう。だから、あたしが幸せな限り撩もまた幸せなのだ。

商売繁盛家内円満、笑う門にはハッピネス。

「それじゃ結局お昼はあたしのおごりか」

新年早々幸せな気分なのだ、これくらいの出費は痛くもない。

「いや、俺がおごるわ。大凶は大吉よりラッキーなんだろ?」
「いきなり大吉の効き目が出たんじゃない、香さん」

冴子さんが肘で突っつく。
初め良ければ総て良し、この調子なら今年はおみくじどおり最高の一年になりそうだ。あたしにとっても、撩にとっても。

「ねぇねぇ、そこのもっこり振袖のお嬢さん、着崩れ心配じゃありません?
なんならボキが一から着付け――」

前言撤回、あいつのナンパ運は大凶でありますように。


なんだかまとまりきれないネタになってしまいました【反省】
撩も香も勝手に好き放題動いていってしまったので。
でもおみくじで何が出ようと、撩にとって香が幸運の女神であることは間違いなし、
今年一年何があろうとも・・・
ということで実はさりげなくCDD直前だったりして【笑】

ということで本年もHard-Luck Cafeともども

よろしくおねがいいたしますm(_ _)m

City Hunter