all's well that starts well |
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一月一日、新宿・花園神社。
「おまぁが『振袖姿のもっこりちゃんがいるかも』って言うから来てやったのに、 と白い息と一緒に不満を吐き出しながらいやいや階段を上る。その足取りが重いのは初詣に気が進まないからだけじゃない。撩の右脚には鉛玉が埋まったままだ。 麻薬精製工場の破壊は撩だけの力で充分だった。だが、敵は思ったより馬鹿ではなかった。追い詰められた奴らの一人が撩に向けてショットガンの銃爪を引いた。そして無数の散弾が彼の脚に喰い込んだ。 「これじゃ金属探知機に反応しちまうな」 もっとも、飛行機になんて乗る機会も無いから金属探知機になんてくぐることも無いだろうけど、と撩は笑う。 混み合う参道には見知った人影があった。 「あっ、冴子さん」 新年早々いやな予感。 「どうした?特捜課のデカが雑踏警備かよ」 そう、撩は神様なんか信じない。祈るくらいなら自分だけの力で運命なんかねじ曲げていく。彼の祈りが天に通じたことなどないのだから。 「しょうがねぇだろ、こいつがどうしてもって聞かないもんだから」 「あら、それだけ想われてるってことじゃない」 神聖なる境内で何たる愚行、正真正銘神をも恐れぬもっこりバカに天罰のハンマーを下すと、あたしはひとりで神社へと急いだ。――どうせあたしの心配なんて撩には迷惑なだけだ。 「いいの、撩。この人混みじゃ香さんのこと見失っちゃうわよ」 それでもお賽銭を投げて(いつもは10円のところを今日は奮発して100円も出したんだから!)祈ったのは、今年一年の撩の無事だった。 「何を一生懸命お祈りしてたんだ?」 人混みの中でもこの男はいつも頭一つ抜け出している。 「まさか『今度の宝くじこそ一等前後賞つきで当たりますよーに』じゃねぇだろうな」 見ると冴子さんが目を閉じて静かに祈りを捧げていた。その表情はいつもの撩をたぶらかす女狐からは程遠かった。 「なぁ香、おみくじでも引こうぜ」 珍しいんじゃない?占いとかも全く当てにしない撩が。 「一番運が良かったヤツが昼飯おごりな」 と冴子さんは撩の罰当たりな提案に乗った。 「そう、ボキ冴羽撩、ハタチ。撩ちゃんって呼んでね」 バイトの巫女さんをナンパしてるバカは無視だ。 「やった、大吉!」 彼女の手の中のおみくじには『中吉』と書かれていた。 「でも『待ち人来る』ってあるじゃねぇか」 撩がその無駄にある上背を利用して肩口から覗きこむ。 「まあ今さら誰を待つって歳でもないだろうけどな」 そうウキウキとおみくじをしまい込む冴子さんの姿を見てると複雑な気分だ。 「撩こそどうなのよ」 女二人の視線が撩の手元に集中する。そこには・・・ 「大・・・凶」 この神社にもあったのねぇ、という冴子さんの言葉もあたしにとっては気休めにさえならなかった。あの二文字を目にした瞬間、凍りついてしまったのだから。 「そりゃそうだよなぁ、今年も一年疫病神につきまとわれるんだから」 その言葉で目からウロコが落ちた。そして含み笑いがこぼれる。 「それじゃ結局お昼はあたしのおごりか」 新年早々幸せな気分なのだ、これくらいの出費は痛くもない。 「いや、俺がおごるわ。大凶は大吉よりラッキーなんだろ?」 冴子さんが肘で突っつく。 「ねぇねぇ、そこのもっこり振袖のお嬢さん、着崩れ心配じゃありません? 前言撤回、あいつのナンパ運は大凶でありますように。
なんだかまとまりきれないネタになってしまいました【反省】 ということで本年もHard-Luck Cafeともども よろしくおねがいいたしますm(_ _)m
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