ママがサンタにキスをした |
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連中がああ見えて大のパーティ好きだということはだいぶ前から知っていた。クリスマス、誕生日、終いには誰かの快気祝いと事あるごとにCat'sを借り切って盛大に騒ぎたがる。だが、そのパーティの主役が、ことにクリスマスに限ってはガキどもに移ってからもう何年も経った。 美樹ちゃんが毎年腕によりをかけてケーキを作れば、かずえくんがミック直伝のローストチキンを持ち込む。それに負けじと我がパートナーも和洋中とご馳走を嫌というほどこさえて出席者に振る舞うのだ。子供たちは他愛もないゲームに大盛り上がりするのも、今や毎年の光景となっている。 そうして、チビらがはしゃぎ疲れた頃、ようやく大人のクリスマスが始まる。彼らがサンタの夢を見ている間、今夜ばかりは恋人同士に戻って甘い夜を過ごすのだ。シャンパングラスを傾け合うもよし、俺たちのようにそんなまどろっこしいものはすっ飛ばしてしまうもよし。 家に着くなり娘を寝かしつけにかかる。ベビーベッドを卒業してからは、階下の元・香の部屋を子供部屋としてあてがってあった。Cat'sであれだけ騒いで、その上ご馳走とケーキで満腹になったひかりはすっかりすやすやと寝息を立てていた。 寝室には一足先に香が待っていた。暗い部屋にはベッドサイドの照明だけ、その明かりが彼女の姿をぼんやりと浮かび上がらせる。 「ひかり、もう眠った?」 こんな格好でもまず気にかけるのは娘のこと。 「そういう所帯じみた話は止めようぜ、せっかくのクリスマスイヴなんだからな」 ああそうだ、俺はいつものTシャツのままだった。だが、 「もうこれ以上待てねぇよ」 それ以上の文句は唇で塞いでしまおうとすると、香の人差し指に阻まれた。 「そういえばプレゼント、枕元に置いてきた?」 子供が寝静まった後、こっそりプレゼントを置いておくのが我が家の習慣だった。そして翌朝、思わぬ贈り物に大喜びの娘に「昨夜サンタさんが持ってきてくれたんだよ」と見え透いた茶番を演じるのがクリスマスの朝の恒例行事となっていた。 「んなもん、後でいいだろ」 そうなると休日の朝はあいつの方が早い――というか、休日と平日の区別が無いのだ。先を越されるのは目に見えている。さらに追い討ちをかけるように、 「ほらっ、やることやってから。お楽しみはその後よ」 こうなるとまるで自分が子供になったようだ。渋々重い腰を上げてプレゼントを渡しに行こうとした、その時、ドアの向こうに気配を感じた。クラッカーならぬ本物の銃で邪魔しに来たようではなさそうだ。 言い忘れていたがウチの娘には夢遊病のケがあるようだ。 「ひかり、どうしたの?」 このままでは香のやつ、子供をベッドに上げてしまいかねない。まずい、また母親モードに逆戻りだ。パートナーより先に娘を抱き上げた。 「ちゃんと部屋で寝てないとダメだろ」 夢遊病とは思えないしっかりした口調で言った。もちろんそんなこと、朝になったら忘れてしまうのだが。 「ベッドにいないとプレゼント貰えないぞ」 と、片手にぶら下げた大きな靴下を示してみせた。それは子供たちに香が作ってやったものだ。 「ダメだ、部屋に戻るぞ」 ・・・いったい誰に似てこんなに頑固なんだ。 毎年自分が寝てしまった後にやってくるサンタクロースの顔を拝んでみたいというのは子供にとってはいわば定番の願望だ。だがそれは別に自分の部屋で事足りることだ。なんでわざわざ俺たちの邪魔を―― 「ひかり?」 さっきまでの様子はどこへやら、俺の腕の中でうつらうつらし始めていた。そして寝言のように呟いた。 「サンタさんってどこにいるの?」 後で嘘つきと言われるのは嫌だから、とりあえず『公式設定』を教えておく。 「なんでトナカイのソリで空が飛べるの?」 これは俺にも答えられない。 ひかりの素朴な疑問に答えているうちに、一つの可能性に考えが至った。 これでようやく納得がいった。もしもサンタの正体が自分の父親だとしたら、こうして張りついていればアリバイが証明できる。そして俺がいるところにサンタが現れれば、サンタクロース≠パパということになる。ただしそれはサンタクロース=パパにとって非常にやりづらい事態に陥ってしまう。 ――まさか自慢の七色の声がこんな時に役に立つとは思ってもみなかった。 「――サンタさん?」 娘の寝ぼけ眼にはいつものくすんだTシャツの赤がサンタクロースの真っ赤な衣装に映ったのだろう、とっさに作り声で「ホォッ、ホォッ、ホォッ」と笑う。 「ひかりちゃんがいい子にしてたから、プレゼントを持ってきたんじゃよ」 するとひかりは何を思ったか、 「パパー、パパー!」 と俺を呼び始めた。 「どうしたひかり――おお、サンタさんじゃないか!」 「さすが撩ね、ボロが出なかったじゃない」 振り返ると子供部屋の戸口に香が立っていた。だが、 「カオリン、ベビードールは?」 すっかり暖かそうな――そして色気の無いネルのパジャマに着替えた後だった。これじゃイヴの夜もへったくれもない。 「ところでどうするの、ひかり」 そうだ、子供とは思えない頑固さで俺にしがみついているこいつを引きはがすのはもはや不可能に近い。 「久々に川の字で寝よっか?」 となると今夜はおあずけ決定か・・・。ひかりをくっつけたまま肩を落とす俺に、 「撩、メリークリスマス♪」 と触れるだけのキスを落とした。
「パパ見て!サンタさんからのプレゼント♪」 久しぶりに親子三人が一つのベッドで眠った翌朝、クリスマス。 「開けていい?」 するとガサゴソとリボンと包装紙を剥がしにかかる。中からリクエストどおりの品が出てきたらその表情は満面の笑みになることだろう。その後、子供が出かけていってから香ちゃんにどう昨夜の埋め合わせをしてもらうか考えを巡らすと同時に、来年のクリスマスイヴに今から頭を痛めていた。 ――パーティに直接サンタに来てもらうしかないな。 もちろん誰かの扮装だ。ミックあたりにやってもらうか。 ようやくクリスマスネタ第3弾、今度はお子様たち編です。 って弾を重ねるたびにどんどん王道からかけ離れていきますね【苦笑】 タイトルは言わずと知れたクリスマスソングの王道ですが また見事に歌詞の内容を無視してます【爆】 でもこの三題噺的取り合わせの意外さが まさしく自分の書きたい冴羽家クリスマスだったんです♪ ということで、皆様 Merry Christmas!
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