Winter Wonderland |
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ミックと出会って、初めてのクリスマス。 なら二人きりで過ごそうというのが普通なのだろうけど、イヴの今宵は二人でCat'sのクリスマスパーティに呼ばれていた。といっても、長らくお店の常連たちとは主治医と患者という関係だったが、パーティに出るのはこれが初めてだった。 その帰り道、 「橇の鈴が鳴ってるよ、聞こえているかい? と雪が降っているわけでもないのに、高歌放吟しながらミックは上機嫌だった。だがその足どりは覚束ないものだ、歩道の段差につまづいて、 「あぁ、ミック」 アスファルトの上に座り込んだ。 「Sorry, Kazue」 と千鳥足のフィアンセの肩を抱き起こす。今年も終わりが近づき、真夜中ともなれば東京でも風が冷たい。しかし、こうして身を寄せ合って歩いていれば、心もほんのりと暖かくなる。 「せっかくのクリスマスだっていうのに。 そういえばかつての婚約者を失ってからというもの、クリスマスらしいクリスマスなど送ってはいなかった。 「昨年まではどうだったんだい?」 教授ももうクリスマスなんて歳ではなかったし、毎年「若い者は若いものらしく楽しんできたまえ」と言ってくれたが、あの頃の私はまだまだ世間のお祭り騒ぎに加わる気にはなれなかった。それすらも忘れたくて、結局クリスマス返上で毎年研究室に篭っていたのだ。 ――確か私は冴羽さんに近づきたくてこの世界に飛び込んできたはずだった。パートナーとして側にいることができないなら、せめて医師として、持てる技術と知識を通して彼の役に立てれば、そう思って今まで教授の助手を務めてきた。 「アメリカではクリスマスは家族で過ごす日だからね。 千鳥足の歩みが止まる。 それはずっと心の中にあった疑念だった。 「あっ・・・Mick, please forget it(忘れてちょうだい)」 酔っ払いの眼に理性の火が点った。 「オレは今でもカオリの幸福を心から願っている。 まぁ、オレに敵うのはカオリのブラザーくらいかな、とミックは笑った。 「キミには申し訳ないと思ってるよ、カズエ。 判っていた、彼が香さんを見る視線から。彼女が彼にとって大切な存在なのだと、私では代わりにならないほどの。もちろん覚悟はしていた。だがそれを直接ミックの口から伝えられ、少なからずショックを受けたのもまた事実だった。 「でも彼女を幸福にできるのはオレじゃない。 街灯の向こうの夜空を見上げながらミックが言った。 「オレの幸福は彼女を独り占めにして、その笑顔を誰よりも側で眺めることだった。 その言葉に、さっきまでのパーティでの香さんの姿を思い出した。 「それにオレを幸せにしてくれるのは、カズエ、キミしかいないんだ」 そう碧い瞳で真っ直ぐに見つめられた。 「幸福の青い鳥は身近なところにいたんだよ」 「青い鳥は飛んで行ってしまったけど こんな真夜中、近所迷惑も甚だしいが、私も声を合わせていた。 「Have you found your blue bird(青い鳥は見つかった)?」 幸福の青い鳥は、思わぬところに隠れているかもしれない。 その一節、 Gone away is the bluebird Here to stay is a new bird からふと思いつきました。 そういやミック、「ボクの青い鳥♪」なんて言ってましたし【爆】 というわけで、全然クリスマスでもないですね。
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