Make up Tonight

バスルームいっぱいに立ち込める芳香。
ほのかに薄紅がかった乳白色のお湯の中に身体を浸せば
気分はまるで映画のヒロイン。
これで摘みたてのバラを浮かべれば完璧なんだけど、と思いながら
水面に漂うポプリの花びらを両手ですくった。

普段はお風呂の残り湯を洗濯に使うから入浴剤は使えないんだけど
今日ばかりはそんな所帯じみたことは忘れてしまおう。
3月25日、PM11:48 。
優雅なバスタイムを終えた頃にはきっともう明日になっているはず。
そんな特別な日の前夜に当の本人はというと
『祝・撩ちゃん○回目のハタチのバースデイ・イヴ』と銘打って
ゲイバー『エロイカ』で繰り広げられるバカ騒ぎに
ミックと揃って出かけていってしまった。
でも、その方がかえって好都合。
エリカママも電話で「今日の主役は飲み代サービスよv」と言ってくれたから
ツケの心配をしないで送り出せるし
あいつが帰ってきたときあっと言わせてやりたいから
撩のいぬ間に、女を磨く。

こうして一面のバラの匂いに包まれていると
些細な日常なんて忘れて華やいだ気分になれる。
それに、その甘い薫りは女らしさを引き出してくれると
どこかで聞いたことがあったような気がする。
滑らかな肌触りの入浴剤のおかげで
肌もしっとりとしてきたような。
顔かたちはメイクや髪形でどうにかなる。
プロポーションも服装でカモフラージュできる。
でも、素肌ばかりはごまかしが効かない。
お湯から上がるとボディローションで仕上げ、
もちろん同じ香りのするものだ。
どこを触れられてもいいように、体中になじませる。
そして、ほんのりとただよう芳香。
鼻の利くあいつは香水の匂いを煩がるけど
これくらいなら許容範囲の内のはず。

この入浴剤もローションも、実はかすみちゃんから貰ったサンプルだ。
エロイカのバースデイ・イヴ・パーティも
ミックあたりがセッティングしてくれたものだろう。
不思議なものであたしや撩の恋敵だったはずなのに
いつの間にかすっかりあたしたちの応援に回ってくれている。
だからこそ、幸福にならなければいけない。
あたしが撩の手を、撩があたしの手を離さないように
そのための努力なら惜しまないつもり。

用意しておいた下着は撩から貰ったもの、
後で着用済みのをこっそり頂くのが目当てとしか思えないような
ローズピンクに黒のレースで縁取られたブラジャーとショーツ。
こんな派手なもの、身に着けようにも着ける機会が無かったけど
こういうときにこそ使ってあげないと。
さて、その上に何をまとえばいいだろうか。
ベタなところでは透け透けのベビードール、なんだろうけど
それじゃあまりにも芸がなさすぎる。
そういえば、前に冴子さんがくれたサテンのパジャマ、
色違いでまとめ買いしたのを美樹さんたちと一緒に貰ったものだ。
あたしのは今夜にぴったりのほのかな薄紅色、
シンプルなデザインだけど光沢のある生地で
着心地も滑やかだ。

もう日付も変わったころ、
ほろ酔い気分であいつが帰ってくるはず。
そうしたら「三十ン歳の誕生日おめでとう」って言ってあげよう、
プレゼントはもちろんあたしで。

『Make up Tonight』と銘打ってますが、イメージとしてはむしろ
『Give me your love tonight』の方。
ようやく連載の方でも寸止め展開を脱せたので
やっとこっちでも大人なムードのネタが書けます【笑】

「プレゼントはア・タ・シ」というのはある意味定番中の定番ですが
これだけ手間ひまのかかった「ア・タ・シ」だったら
ありがたく頂戴するしかないでしょう!
ま、撩ちゃんだったら香なら何でもいいんでしょうけど【笑】
ということで、

Happy Birthday, 撩!

City Hunter