カカオ100% |
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「はい、撩」
んあ?と返事をしようと開けた口の中に何かが放り込まれた。 「ハッピーバレンタイン♪」 大きさからしてチ□ルかと思ったが、安物特有の甘ったるさからは程遠い苦味。これはブラックとかビターという域をはるかに超えている。 「カカオ100%のチョコレートだって。撩って甘いの苦手でしょ」 そう言って差し出されたのはブラックコーヒー。苦いものに苦いのを合わせて、さすがのアンチ甘党の俺でも口の中が痺れるかと思ったら、逆にカカオ本来の味が際立ってくる。上品なコクと渋味。混ぜ物無しの100%では味がごまかせない分、相当いい材料を使っていることは俺にも推測できる。 「高かったんだからね、ちゃんと味わって食べなさいよ」 香のカップの中に入ってるのはいつものココアではなくホットチョコレート、らしい。ちゃっかり自分もいいものを飲んでる、と突っ込んだら「あんたのよりは高くないわよ」と突っ込まれた。 「たった9粒で1000円もするんだから」 「んじゃあたしも」 「皮肉なもんよね、チョコレートっていえば甘いものの代名詞のはずなのに 口直しにホットチョコレートを口いっぱいに含む。おいおい、それだって俺ほどじゃないけど高いんだろう?味わって飲めよ。 「カカオって中米原産なんだけど、昔はカカオ豆をすりつぶしたのを溶かして飲んでたらしいの。でもこんなのがよく飲めたわね」 媚薬にもなるっていうしな。 「だからヨーロッパでは砂糖とかミルクとか加えて飲みやすく食べやすくしたんだって。今のチョコレートはカカオ30%とか40%しかないの。チョコがあんなに甘いのは実はカカオ以外の味だっていうから、ほんと、皮肉よね」 まるで俺みたいだな、とふと思った。中米のジャングルの中でビターに育ったはずが、海を越えてさまざまな人間に出会ううちにさまざまな余分なものをくっつけて、すっかり口当たりまろやかな甘口になってしまっていた。 じゃあ俺は? いや、今さらもう戻ることはない。これが今の自分なのだから。本来の自分もそれ以外の余分なものも総てひっくるめて今の、口当たりまろやかでスイートで、ちょっぴりビターな冴羽撩なのだから。 ――それに、今さらこいつとも離れるつもりはないからな。 とシュガーボーイの熟れの果てを腕の中に掻き抱いた。 ![]() ちょっとブームからは乗り遅れてしまいましたが background by Niche
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