Brand-new Sunshine

「ここは、どこだ・・・?」

いや、大体の場所は判っている。信州の山の中、いや、もう岐阜県に入ったか。

「少なくともロッキー山脈のふもとじゃないのは確かだな」

隣にいるのはこんな奴しかいない。世間じゃ2007年がスタートしたばかりだというのに。

「オレだって何でせっかくのnew year eveをリョウと二人きりで過ごさなきゃならなかったんだ。日本じゃどうかは知らないが、アメリカじゃこの日こそ恋人たちの時間、新しい年をカズエと一緒に迎えるはずだったのにぃ」
「お前のお目当ては“Happy New Year!”のキスの無礼講じゃなかったのか」

日本とは逆にアメリカではクリスマスこそ家族で祝う夜。その代わりに大晦日のパーティではここぞとばかりに恋人を見せびらかす。逆に、「大晦日を過ごすカレ(orカノジョ)がいない!」と焦る気持ちは日本のクリスマスと同じ。

家族で過ごす日だろうが恋人同士の日だろうが、アパートでは香が二人分の年越しそばを作って待っていたはずだ。
なのになぜミックとむさくるしい男同士で夜明かし、年明かししなきゃならない羽目になったかというと、半ばかずえくんにハメられてこの元相棒のボディガードを引き受けたからだった。相変わらずヤバいネタに飛びついていったらしい。
敵のアジトの情報を仕入れたのが31日の昼間。今年の仕事は今年のうちに、野郎の、それもお互いの知られたくない過去まで知っている同士の悪友のガードなんてさっさと終わらせて清清しい気持ちで新年を迎えようとクーパーで山奥の山荘までかっ飛ばしてきたのだ。それに、世間じゃもう正月ムード一色、警備も多少甘くなっていると踏んでのこと。予想通り雑魚どもを蹴散らし、ミックはスクープの証拠を手に入れたまではよかった。

山の中では日暮れが早い。人目をはばかるように(といいながらも建物そのものは超豪華)建てられた山荘はかなり山深い奥にあった。そこから日の暮れた山道を新宿目指して帰る途中・・・まぁ、早い話が道に迷ったわけで。
真っ暗な森の中、へたに動けばますます山奥へと迷い込むどころか、一歩間違えば深い谷底に真っ逆さま、という危険がある。だから狭いクーパーの中、ミックと一夜を過ごす羽目に陥ったというわけだ(嫌なヒビキだな)。

もちろん暖房はつけられない。だからといってこの金髪変態野郎と肩を寄せ合うくらいならゲイバー『エロイカ』のカウントダウンパーティで屈強なオカマたちからキスを浴びせられた方がまだましだ。
そういや昨年のクリスマスイヴも冴子に仕事を押し付けられて散々な目にあったっけ。せめて来年、今年こそとは思ったが年明け早々これでは先が思いやられる。
こうなったらミックから報酬ふんだくって、佐野厄除け大師あたりで厄除け祈願してもらわないことには――日ごろ神も仏も信じない俺が、このときばかりは本気でそう思った。

「なぁリョウ、カオリから何か連絡はあったか?」
「いや、さっき見たら通信規制がかかっててこっちからメールもできなかったが」

年が明けた瞬間にバカどもが乱発するメールのせいで、ここ数年1月1日の0:00前後には前もって通信規制がかかるのがいつものこととなっていた。あいつにとっては心細いだろう。
いつかなんか、3日で済むと家を空けての仕事が5日経っても1週間経っても終わらなかった。そのときは電波の届かない絶海の孤島だったのだが、東京に戻ってメールを確認すると、携帯電話がパンクするんじゃないかというほど香からのメールが届いていた。それも1時間おき、中には2,3分というインターバルで送られてきたものもあった。
そんな心配性で寂しがり屋の香からメールはおろか電話すらかかってこない。携帯の画面をもう一度確認する。2007年が明けて7時間が経っていた。電波は微弱ながらここにも入ってきている。通信規制ももう解除になっただろう。
あのメールの嵐からもう数年経って、香もそれだけ大人になったということか。それはそれで寂しい気もするが。

そのとき、手のひらの上で携帯電話が騒ぎ出した。

「ほれほれ、カオリからの2007年初メールじゃないのか?」

隣のバカが覗き込もうとするが、体を盾に鉄壁のガードで防ぐ。こいつからの報酬の使い道は、まず携帯の覗き見防止シートかもしれん。
メールには写真が添付されていて、そこに映っていたのはビルの谷間から昇る朝日と――

「なんだ、逆光じゃねぇか」

From:槇村香
Subject:あけましておめでとう!
Text:アパートの屋上から見えた初日の出です。撩と一緒に見れなくて、せいせいするような少し寂しいような・・・

真っ黒になってしまった香の表情が微笑んでいるのは見てとれた。

「メールだと随分素直なこと言ってくれてるじゃないの」

もしかしたらあいつは寂しさを堪えてずっと一晩中屋上で待ってたんじゃないだろうか。携帯電話を握り締め、それにすがりつきたくなるのをじっと我慢して。そして俺に心配させまいと無理に笑ったメールをよこして――。これ以上あいつに寒空の下待たせるわけにはいかない。

「風邪ひいて熱でも出してみろ、看病するのはこの俺なんだからな」

ついつい口に出てしまうのは憎まれ口。だが、山の中では日の出も遅い。夜明け前の暗闇の中、どうすることもできない。

「おいリョウ、見てみろよ」

助手席のミックが指差した。山並みの切れ目から、少しずつ真っ赤な太陽が顔を出し始めていた。

「まさか初日の出をてめぇと一緒に拝むなんてな」
「そんなのこっちから願い下げだ」

この朝日は今、新宿で香を照らしているのと同じだろうか。今浴びている光を、香もまた浴びているのだろうか。独りじゃない、今は。同じ太陽の下にいる今は。

まだ微かな朝日に照らされて、俺はクーパーのイグニッションキーを回した。日が昇りきるころには広い国道に出られるだろう。そうすればあとは太陽を目指していけばいい。俺に希望の光を照らす、香という名の太陽に向かって。

ということで、『silent night, noisy night』に引き続き
大晦日〜新年だというのに冴羽商事は元日より営業です【爆】
2007年はラヴ強化年だというのに香ちゃんは写メのみ、しかも逆光ですか・・・
こんな色気の無いCHサイトですが、2007年もどうかご贔屓にm(_ _)m


City Hunter