Brand-new Sunshine |
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「ここは、どこだ・・・?」
いや、大体の場所は判っている。信州の山の中、いや、もう岐阜県に入ったか。 「少なくともロッキー山脈のふもとじゃないのは確かだな」 隣にいるのはこんな奴しかいない。世間じゃ2007年がスタートしたばかりだというのに。 「オレだって何でせっかくのnew year eveをリョウと二人きりで過ごさなきゃならなかったんだ。日本じゃどうかは知らないが、アメリカじゃこの日こそ恋人たちの時間、新しい年をカズエと一緒に迎えるはずだったのにぃ」 日本とは逆にアメリカではクリスマスこそ家族で祝う夜。その代わりに大晦日のパーティではここぞとばかりに恋人を見せびらかす。逆に、「大晦日を過ごすカレ(orカノジョ)がいない!」と焦る気持ちは日本のクリスマスと同じ。 家族で過ごす日だろうが恋人同士の日だろうが、アパートでは香が二人分の年越しそばを作って待っていたはずだ。 山の中では日暮れが早い。人目をはばかるように(といいながらも建物そのものは超豪華)建てられた山荘はかなり山深い奥にあった。そこから日の暮れた山道を新宿目指して帰る途中・・・まぁ、早い話が道に迷ったわけで。 もちろん暖房はつけられない。だからといってこの金髪変態野郎と肩を寄せ合うくらいならゲイバー『エロイカ』のカウントダウンパーティで屈強なオカマたちからキスを浴びせられた方がまだましだ。 「なぁリョウ、カオリから何か連絡はあったか?」 年が明けた瞬間にバカどもが乱発するメールのせいで、ここ数年1月1日の0:00前後には前もって通信規制がかかるのがいつものこととなっていた。あいつにとっては心細いだろう。 そのとき、手のひらの上で携帯電話が騒ぎ出した。 「ほれほれ、カオリからの2007年初メールじゃないのか?」 隣のバカが覗き込もうとするが、体を盾に鉄壁のガードで防ぐ。こいつからの報酬の使い道は、まず携帯の覗き見防止シートかもしれん。 「なんだ、逆光じゃねぇか」 From:槇村香 真っ黒になってしまった香の表情が微笑んでいるのは見てとれた。 「メールだと随分素直なこと言ってくれてるじゃないの」 もしかしたらあいつは寂しさを堪えてずっと一晩中屋上で待ってたんじゃないだろうか。携帯電話を握り締め、それにすがりつきたくなるのをじっと我慢して。そして俺に心配させまいと無理に笑ったメールをよこして――。これ以上あいつに寒空の下待たせるわけにはいかない。 「風邪ひいて熱でも出してみろ、看病するのはこの俺なんだからな」 ついつい口に出てしまうのは憎まれ口。だが、山の中では日の出も遅い。夜明け前の暗闇の中、どうすることもできない。 「おいリョウ、見てみろよ」 助手席のミックが指差した。山並みの切れ目から、少しずつ真っ赤な太陽が顔を出し始めていた。 「まさか初日の出をてめぇと一緒に拝むなんてな」 この朝日は今、新宿で香を照らしているのと同じだろうか。今浴びている光を、香もまた浴びているのだろうか。独りじゃない、今は。同じ太陽の下にいる今は。 まだ微かな朝日に照らされて、俺はクーパーのイグニッションキーを回した。日が昇りきるころには広い国道に出られるだろう。そうすればあとは太陽を目指していけばいい。俺に希望の光を照らす、香という名の太陽に向かって。 ということで、『silent night, noisy night』に引き続き
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