また春が来るたび

「ねぇ撩、見て。綺麗だよ」

見上げた先にはソメイヨシノの枝が七分咲きほどにほころんでいた。その下を踊るようにくるくると回る香。春色のセーターが薄紅色の花びらとうららかな日の光によく映えていた。

「ふわぁあぁあ」
「撩ったら、ちゃんと見てるの?」

新宿御苑は公園のくせに入場料を取られるとあって、日頃万事節約の冴羽商事としてはたとえ近所でも自然と足が遠のいてしまう。しかしこの時期は別だ。年に一度の贅沢とばかりにここで桜を見物するのがいつしか恒例行事となっていた。

「せっかくお金払ってみてるんだから、その分ちゃんと元取んなさいよ」

もともと風情なんてものには縁のない俺だが、それに輪をかけて無粋なことを言うもんだ。

「もっとも、撩にとっては花より団子、でしょうけど」
「それは香ちゃんのことじゃないの、色気より食い気ってのは。
撩ちゃんは桜の花よりももっと綺麗な花の方が――」

ここでいつもだったら同じく花見に来たもっこりちゃん目掛けて「ねぇねぇそこのか〜のじょ〜♪」と行くはずだが、今日ばかりはそれも自粛だ。何せ今日は一応誕生日、といっても香が勝手に決めてくれたものだが、あいつのくれるプレゼント、つまり一緒に過ごすこの時間を有難く受け取らなければならないのだから。

「そういえばさぁ、桜、咲くのずいぶん早くなったと思わない?」
「そうか?」
「あんたはそういうの全く気にしないもんね。
でも、高校の入学式のときは桜が満開だったけど
今はその時期じゃもう散っちゃってるし。やっぱり地球温暖化とかかな」
「今年は特に暖冬だったからな」
「桜といえば四月、っていうのももう古い話なのかしらね」
「香ちゃん、珍しく歳わきまえてんじゃないの。そりゃあと5日もしたら――」
「撩だって今日で――」

これ以上言わない方がお互い身のためだ。

この国では四季が巡り、春になれば桜が咲き、香がその頃を誕生日に決めてくれたからってわけじゃないが、その花を見るたびにまた一年歳を重ねたのだなと実感する。それは俺が年齢というのを置いてきてしまったジャングルには無かったものだ。
来る日も来る日も戦闘に明け暮れ、終わりの無いかのように思えた常に死と隣り合わせの日々――それだけではない。もちろん、激しい戦闘もあれば小康状態を保っていたときもあった。密林の中、生々しい色の大輪の花に眼を奪われたこともあった。
だが、そこではいつも同じ季節が流れていた。乾季と雨季の違いはあれ、鈍感な兵士の感覚では気づかない。いつも同じ花が咲き、同じ鳥が飛び、同じように木々が生い茂っていた。同じようなジャングルの中、同じような闘いの日々に時間を数えることを止めてしまっていた。そしてそれは積み重なることもなく、さらさらと砂時計の砂のように流れていってしまっていた。

口では万年ハタチだ何だと言いながらも、この都市で俺は歳をとることを覚えてしまったのかもしれない。だがそれは思っていたより悪いものではない。それだけ、香との歳月を積み重ねてきた証なのだから。

「なぁ、来年も桜見に来ようぜ」
「当ったり前じゃない」

初めて出会った頃と変わらない、でもそれよりずっと大人びた笑顔で香が肯いた。


花粉症の薬のCM【笑】で流れていた竹内まりやの曲を聞いて
「そういや昔こんなネタ考えてたな」とサルベージしてきた冴羽氏BDネタです。
「また春が来るたび 一つ年を重ね」という歌詞、
春生まれでなくても桜の花を見るたびに「また1年経ったんだな」と思います。
3月が誕生日の撩&香ならなおさら。

ということで撩ちゃん、(香の決めてくれた年齢では)

48歳の誕生日おめでとう!

うわ、結構いい年や・・・

City Hunter