また春が来るたび |
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「ねぇ撩、見て。綺麗だよ」
見上げた先にはソメイヨシノの枝が七分咲きほどにほころんでいた。その下を踊るようにくるくると回る香。春色のセーターが薄紅色の花びらとうららかな日の光によく映えていた。 「ふわぁあぁあ」 新宿御苑は公園のくせに入場料を取られるとあって、日頃万事節約の冴羽商事としてはたとえ近所でも自然と足が遠のいてしまう。しかしこの時期は別だ。年に一度の贅沢とばかりにここで桜を見物するのがいつしか恒例行事となっていた。 「せっかくお金払ってみてるんだから、その分ちゃんと元取んなさいよ」 もともと風情なんてものには縁のない俺だが、それに輪をかけて無粋なことを言うもんだ。 「もっとも、撩にとっては花より団子、でしょうけど」 ここでいつもだったら同じく花見に来たもっこりちゃん目掛けて「ねぇねぇそこのか〜のじょ〜♪」と行くはずだが、今日ばかりはそれも自粛だ。何せ今日は一応誕生日、といっても香が勝手に決めてくれたものだが、あいつのくれるプレゼント、つまり一緒に過ごすこの時間を有難く受け取らなければならないのだから。 「そういえばさぁ、桜、咲くのずいぶん早くなったと思わない?」 これ以上言わない方がお互い身のためだ。 この国では四季が巡り、春になれば桜が咲き、香がその頃を誕生日に決めてくれたからってわけじゃないが、その花を見るたびにまた一年歳を重ねたのだなと実感する。それは俺が年齢というのを置いてきてしまったジャングルには無かったものだ。 口では万年ハタチだ何だと言いながらも、この都市で俺は歳をとることを覚えてしまったのかもしれない。だがそれは思っていたより悪いものではない。それだけ、香との歳月を積み重ねてきた証なのだから。 「なぁ、来年も桜見に来ようぜ」 初めて出会った頃と変わらない、でもそれよりずっと大人びた笑顔で香が肯いた。
「そういや昔こんなネタ考えてたな」とサルベージしてきた冴羽氏BDネタです。 「また春が来るたび 一つ年を重ね」という歌詞、 春生まれでなくても桜の花を見るたびに「また1年経ったんだな」と思います。 3月が誕生日の撩&香ならなおさら。 ということで撩ちゃん、(香の決めてくれた年齢では) 48歳の誕生日おめでとう! うわ、結構いい年や・・・
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