見透かして、且つ見逃して。

夏が来た。

7月も半ばをすぎたのにいまだ梅雨空に覆われて、香は「今年は冷夏かもねー」なんて
言っていたが冗談じゃない。

夏、それは一番で最も女性が美しいシーズン。

冬の間は鉄壁のガードで覆われていたおみ脚、腕、そして胸元さえも、
あたかも北風と太陽の喩えのように、夏の暑さの前に剥き出しになる。

そして、服装が開放的になれば心も開放的になる。
普段だったら無理のあるお誘いも、太陽に浮かされた心ならきっと
Yesと言ってくれるはず。
夏こそ歌の文句にあるように、恋の季節なのだから。

――でもこう暑いと人が傍に寄ってきただけでも暑苦しいわよねぇ。
  触れられようものなら最悪。

何を言うか香くん、いくら暑苦しいからって冷房の当たりすぎは体に毒。
暑いときこそ熱くなっていい汗流して、それでこそ夏というもの。

嬉しいことに今月に入って連日の真夏日、
TVのニュースが伝える炎天下の街角には待ちに待った薄着のもっこり美人ちゃんたち。
こうなったら居ても立ってもいられない、いざ、新宿のストリートへ、
ミニにノースリ、生脚魅惑のもっこりちゃんが待っている!

「熱中症には気をつけてよ、もう何人も救急車で運ばれてるっていうから」

冗談じゃない、温度調節機能の衰えた老人とハタチを一緒にするな。

かく言う香の今日の格好は、白のTシャツにデニムのミニスカートといういつもどおりの、
色気もへったくれもないようなもの。ちなみにTシャツは3枚1000円のパック売り。
しかし、そのTシャツがヤバかった。

何でブラジャーが透けて見えるんだよ!

白地のシャツを着るときは、白の下着ですら透けて見える。
だから女性たちは肌色(俺に言わせりゃババ色)の下着を選んで身につけたりするようだが、
はっきり言ってその隙のあるスケ感こそ薄着の醍醐味だ。
それにいざ脱がせてみて中のブラがババ色だったら萎えるぜ、俺は。

が、香だけは話が別だ。

その上、ただでさえ白でも透けるというのに
何であいつはブルーのブラなぞしてるんだ。

あれは前見たことがある。香のタンスを覗きに行ったとき見かけたモノだ。
レースもフリルもない、いわゆるTシャツブラというヤツか?
上に下着の凹凸が響かないようになっているタイプだ。

そんな色気のないもの、と思ったがそれが白のTシャツというヴェール一枚介しただけでかくも男心をそそるのか。

日ごろ、「俺が唯一もっこりしないオンナ」と公言する理性に逆らって
熱くなり始める俺の下半身。その熱さは真夏の日差しに負けないほどだ。
こらっ、鎮まれ!ここでもっこりし出したら
心にもないこと言ってがまんしてきた俺の数年間は一体何になる!
ここは一つ、一言「下着が透けてるぞ」と突っ込んでやればいい。
そして「このもっこり変態常夏男!」とばかりに香の太陽よりも熱いハンマーが下るだろう。
多少痛いが、うむ、それで収まる。それでまた俺たちはいつもどおりだ――。

と思ったがその一言が出てこない。
ヤバい、俺まで真夏の太陽に浮かされたのか?
しかし、浮かされタガも飛びそうなこの理性では、こんな香を見続けようものなら
きっと押し倒してしまうに違いない。ヤバい、それだけは絶対に避けなければ。

とりあえず、こいつと同じ部屋にいない方が身のためだ。

「んじゃ撩ちゃんナンパに行ってきま〜す!
待っててねぇ薄着のもっこりちゃんたちぃ♪」

「ちゃんと水分補給しなさいよ!」

パートナーの有難い声が飛んだ。

で、ナンパの結果?そんなの目に見えてるだろ。惨敗だよ惨敗。
どんな美人を見ても目の中にあのTシャツに透けた色気のない下着が目に浮かんで
ナンパになりゃしない。もうこれは本気で「もっこりしないオンナ」宣言を撤回しなきゃならない時期にさしかかっているかも。果たして、それでいいのだろうか。
夏に浮かされた一夜の夢、そう割り切ってしまおうか、それとも――。


残念ながら閉鎖されてしまったジルさまの『planet blue』のお題参加作でした。
実は元ネタは店主自身のプライヴェート、
といってもそんなに色気のあることじゃありませんが。
あちらこちらに某夏バンド的ボキャブラリーが見え隠れするのはご愛嬌ということで。

ジル様、6年もの間お疲れ様でしたm(_ _)m


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