勝手にLiner-Notes
―winter letter―

2007年、毎年恒例の夏のアルバムを見送ったTUBE。そのTUBEが今年はなんと冬にアルバムをリリース!今でこそ『夏=TUBE』のイメージが日本全国津々浦々に定着しまくった感のあるTUBEですが、19年前まではそのイメージと格闘するかのごとく、毎年冬にもアルバム&ツアーをやってたんですよ。あまり売上的には芳しくなかったようですが。
でも『Remember Me』や『ビコーズ・アイ・ラブ・ユー』、『Stories』など知られざる名曲が多いのも冬のTUBE。その流れを汲む今年の冬のTUBE“winter letter”、名曲が無いわけがない、それどころかいずれも過去の冬の名曲に劣らぬ素晴らしい曲揃いです。

アルバムのテーマはタイトル通り『』と『手紙』、つまり伝えたい想い。それは誰かに伝えたい恋心かもしれないし、宛名の無い、だけど誰かに伝えたい――それは未来の自分かもしれない――メッセージというのもあるはず。そしてこのアルバム自体がTUBEからこれを聴くオーディエンスへの手紙と言えるんじゃないでしょうか。この手紙をできるだけ多くの方に届けるお手伝いをしたいのですが、店主の拙いレヴューでその魅力が伝えられればいいのですが・・・。

♪ 冬のプレゼント

1曲目から鈴の音など今までのTUBEでは絶対に使えなかった、冬らしい音作り全開。そして歌詞もマフラー」「ローソクさらには愛の暖炉」「想い出という名の薪」と冬の季語全開w
思えばTUBEの夏の歌だって季語を最小限に絞った上で夏らしさを演出しているものなんですが(そうやって22年間夏を切り売りしてきたんですから:笑)この季語の洪水は、まるでぱっと出の若手の夏歌じゃないんだから【爆】
でも冬のアルバムリリースは19年ぶり、冬をモチーフにした歌というのも92年の『Surfin' in the snow』以来なんですから、19年間溜まりに溜まった『冬』の大棚浚え、といった感じでしょうか?
出だしの歌詞が『Summer Breeze』の冬版じゃねぇかと言うことなかれ、歌詞的にもサウンド的にも「夏男の冬宣言」といった一曲です。

♪ナデシコ

『手紙』、すなわち『伝えたいもの』がテーマのアルバムで、いきなり2曲目で「言葉にしなくても伝わる愛」を歌っていいものだろうか?ある意味『伝える』ということの究極でしょう。
冬のプレゼント』に続いてこの曲も外部アレンジャーを招くなどして冬らしい音作りにこだわってるようですが、でもこの曲の中で歌われているカップル、付き合いばかり長いくせに友達以上恋人未満、ちょいツンデレ、今までのTUBEでさんざん歌われていたような二人じゃないでしょうか?たとえ冬の装いでも中身は今までのTUBE、といったところでしょうか。
『ナデシコ』というタイトル、『純愛』という花ことばから取ったそうですが、ちょっとばかし古典をかじったことのある人間からすると『ナデシコ』=『撫でし子』、つまり愛しい人、という意味に取ってもいいでしょうか?

♪ クリスマスローズ

聞いた瞬間、クリスマスソング流れる街中からいきなり一面の銀世界に連れて来られます、音の力だけで。それだけメロディが壮大です、いわゆる『大バラード』並み。野外の噴水にも十分耐えられるんじゃないでしょうか(まずあり得ませんが)
そのメロディに乗せられる詞が奇跡」「聖なる愛そして僕だけのマリア。作詞を手がけたのは角野氏、前田さん曰く「吐き気がするほどロマンチスト」【爆】という歌詞なんですが、この曲のスケール感ならどんな歯の浮くようなセリフでも説得力があるはず。
でも、これだけのバラードがいきなり3曲目。今までのTUBEの夏アルバムの構成を見事に裏切ってます。

♪方舟

クリスマスローズ』と並んで店主がこのアルバムの中で一番好きな曲。というのは某作品のヒロインのテーマソングといえるほど歌詞が彼女にぴったりだったからだけではありません【爆】
前田さんがMCで言ってたことですが(多分)、一人ひとりができることは小さなことだけど、それが積み重なることによって世界を、そして未来を変えていける。そんな祈りにも似た真摯な歌詞に王道のポップなメロディ、という絶妙のミスマッチはTUBEのオハコでしょう。
でもこの曲や『冬のプレゼント』が“winter letter”の中でいちばんノリのいい曲なんですよね。むしろTUBE全体ではミディアムなナンバーというべきなんですが。いわばこのアルバム、全部新曲のメロメモといっても過言じゃないかも・・・。

♪ 追伸

この曲を初めて聞いたのはRidersのミーティングでのこと。前田さん曰く「今の自分に向かって書いた」歌詞だそうですが、そのとき「これは自分のことを歌ってるんじゃないか」と思ってしまいました。
20代にして自分の人生これでいいのか悩んでます。「自分らしさがどれだけ 人を傷つけたのだろうという詞は今まで好き勝手やらしてきてもらったけど、果たしてそれで良かったのかという迷いでもあり、かといってほつれた糸は二度と 元に戻せないようにいまさら後には引けないところまで来ちゃってますから。
今はもうだいぶ開き直ってますが、それでも前田さんの包み込むような暖かい歌声でなんとか歩いてるから/だいじょうぶと言ってもらえるとそれだけで安心できます。
きっとこの曲が、同じように人生迷ってる人の救いになりますように。

♪ 愛のセオリー

今までのTUBEの夏アルバムの中でピリッと構成にアクセントを加えていたのはお得意の(エセ)ラテンナンバー。しかしラテンといえば降り注ぐ太陽、そして情熱の国!ということで冬のアルバムには不向き。しかしバラード中心のアルバムに変化をつけるには・・・ということでTUBEが選んだのはムード歌謡【爆】
これなんて歌詞の描きだす世界、サビの女性コーラス、そして間奏のギターなんか特に歌謡曲の世界ですよ【苦笑】これがTUBEの新たな引き出しになるのか、それとも“winter letter”限定になるのかは今後の楽しみかも。意外とエセ・ムード歌謡ブームが起きたりして・・・

♪ 君に届いたら・・・

角野氏が「吐き気がするほどロマンチスト」ならば松本氏の描く詞の世界は「純情モジモジワールド」【笑】確かにリョージの歌詞には彼らしさというのがにじみ出ていますよね。前田さんのようにレトリックを駆使するのでもなく、角野さんのようなリリシズムでもない、シンプルでストレートな歌詞というのが彼の持ち味でしょう。
今までは『明日の風』や『夏のseaside road』のような、その持ち味を生かした、どこか無骨な感じのするメロディと組み合わされてきましたが、今回はバラード。ということで、いわゆるこれは『大バラード』の系譜に入れてもいいんじゃないでしょうか?

忘れてしまう方が きっと楽なんだろうけれど
一人でいる長い夜は 君の夢見るよ

の部分、切々と歌い上げる前田さんの歌声が、ややもすればウジウジと小さい世界に閉じこもりがちの歌詞の世界に広がりを与えてるような気がします。

♪ 星空のラヴレター

冬って星がきれいですよね、空気が澄んでますし。なので店主の中で『星空』は冬の季語認定です【笑】
オールディーズのバラード風の曲、っていうかかなりそのまんまな印象です。「音がコスプレしてる」っていうか。『全部新曲のメロメモ』な“winter letter”の中でいいアクセントとなってるんじゃないでしょうか。
でも一つ突っ込ませていただきたいのは、月が出ていると星ってほとんど見えませんよ、月が明るすぎて【爆】

♪ テ・ガ・ミ

ムード歌謡第二弾【笑】今度はちょっとラテン入ってるでしょうか、泣きのギターとかでも『ガラスのメモリーズ』もある意味歌謡曲的なノリ入ってますし
そして、久々にシニカル前田炸裂です。ですが今までは『bloody soul』やソロワーク(といってもベスト収録曲しか知りませんが)のような寸鉄人を刺すといった感じでチクリチクリとやってきましたが、今回は大上段から今の現実をバッサリ斬ってます。
その詞を乗せて歌うのは大仰な歌謡曲風のメロディ、ということで、初めて聴いた時には店主、ちょっと笑ってしまいそうになってしまいました。ライヴで聴いて、ああ、これは大真面目なんだなぁと思いましたけど。あまりに詞も曲も大げさすぎて・・・パロディの一歩手前、という印象を受けてしまいました。

♪哀愁ドライブ

別れの曲、なのにカラッとした感じこそTUBEの真骨頂でしょう。
未練と前向きのせめぎ合う心、なんていうとちょっと暗くなってしまいそうですが、それを乗せて歌うはミディアムスローながらポップの王道なメロディ。特にBメロのずっとこの道を通るもんだと〜の辺りなんかどこか懐かしいような【笑】『方舟』もそうですが、「切な系の歌詞×ポジティヴポップな曲=健気」というミスマッチの方程式はまだまだ健在です。最後の

自由と孤独を手に 哀愁ドライブは続く
というフレーズにこそ、そんな二面性が色濃く現われてるんじゃないでしょうか。

♪ 遠い日の君の姿

でもやっぱり別れの曲は未練たっぷりじゃなきゃ、という方、お待たせしました【笑】じっとり、ではなくしっとりとしたバラード、用意させていただきました。
ですが『クリスマスローズ』や『君に届いたら・・・』のような噴水の似合う大バラード系ではなく、大バラードがフルオーケストラだとしたらこれは室内楽の小品、むしろ印象深くライヴを締めくくるような曲です。現に『冬でごめんね winter letter』のラストはこの曲でしたし。
もちろん未練を『十年先のラブストーリー』のように大バラードのメロディに乗せてどーんと歌い上げるのも感動的です。でも、決して声を張り上げることなく静かに訴えかけることによって、より深いところに伝わる想いというのもあるんじゃないでしょうか。どっちがいいというのではなく、それだけTUBEが大人になったということなのでしょう。

♪ 償い

これもどちらかといえば『小バラード』、それも前田さんのヴォーカルとハルのピアノだけのこじんまりとした曲です。しかし歌われているテーマはとても重い。僕の命じゃ足りないけど/すべてが許される時まで壊れた心や 失った時間は/何で埋められるのだろうといったような、聴く者の心にぐさっと突き刺さるような言葉がそこかしこにちりばめられています。
だからこそ、静かに語りかけるだけでも充分な力を持つ、そんな曲です。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

TUBEといえば夏、という方程式は強固なものですが、だからといって『冬』という単語が歌詞の中に出てこなかったかといえば、決してそうじゃありません。『夏を抱きしめて』の冬を越せぬ恋にゃSay Goodbyeや『ひまわり』の冬を知らずに過ごしたから 火傷もしたけどのように、冬そのものの描写はされないものの言及はされてるわけです。
ここから浮かび上がるのは『試練の季節』としての冬であり、また逆に恋人たちの絆を深めあう季節といえるんじゃないでしょうか。クリスマス、お正月、そしてバレンタインとイベントずくめですし。
そして今回、ようやくその直接歌われることはなかった冬の情景がこうして描かれたわけです。こうして『冬』を具体的に捉えなおすことは、これからもまた『夏』を歌い続ける上で大いに意味のあることだったんじゃないでしょうか。
ということで、むしろ勝負は次の夏のアルバムでしょう。でも変則スケジュールって結局夏に響くんだよねぇ、今回の冬リリースも『Your Hometown』のせいだといえるし。なので、スケジュール的にキツイかとは思いますが、来年の夏もよろしくお願いします!

総合評価は、今までの夏のアルバムと同じ基準でつけるのは気が引けますが、★★★★星4つ!どの曲も強く印象に残る、つまりはハズレ曲が無いというだけでも買いです!


Coming out!