勝手にLiner-Notes
〜sunny day〜


2017年、TUBE18回目の夏。前田さんの喉の手術から1年が過ぎ、昨年のリハビリ的活動を経て「完全復活」といっても過言ではない頃。それゆえ今年のCDリリースは期待半分、そして不安……というより「無理しないでいいよ」半分といったところでした。
というのもTUBEは本質的にはライヴバンド、曲を作って出して終わりというのではなく、それを引っ提げてファンの前まで歌いに行くことまでが自分たちの仕事だと考えているのは、『LOVE SONG』や『春夏秋冬』の歌詞にもあるとおり。2013年からの2年間リリースを休んだのも、それまで25年以上ほぼ毎年10曲以上を世に送り出しているうちに、滅多にステージで歌われなくなった曲もあるから、ということ。
でも……新生前田ヴォイスをCDで聴きたい! もっとわがままを言えば、毎日通勤で聴いているものだからそろそろ何か違うのも欲しい【苦笑】 そして“Blue Sprash”(2009)のような運命的な出逢いよもう一度!というのも本音。
なので「今年はミニアルバムだけ」というアナウンスは、そう来たかと思うほどの理想的折衷案。
6曲だけならフルアルバムほど“在庫”を圧迫させないだろうし、それでも毎日、ライヴ会場でなくても今の前田さんの歌が聴ける。そして――ミニアルバムといえば“Smile”(1992)、“Say Hello”(1993)どちらも名盤。
ということは今年のTUBEは期待できるかも……? そこのところは、以下のとおり。

     ♪ Shiny morning

この曲があったからこそこのアルバムがあった一曲。クノールさん、今年もタイアップのオファーありがとうございますm(_ _)m 最近はCMも昔の定番の使いまわしだから、こうして毎年新曲を使ってくれる固定客ってのはとても貴重。でもそこから1週間で作らなきゃならなかったからか、ハルに投げるわけにもいかず久々の前田曲。
それでもTUBEらしい、夏の朝にぴったりの爽やかさがありながら……ギターソロの音色で、そして曲を通して響くアルペジオもまた「今までのTUBEと違うな」と。春畑氏曰く「新しいエフェクターを使ってみた」そうなのですが、TUBEの根っこにあるハードロックよりもさらにヴィンテージというか……印象論で言えば“Your TUBE+My TUBE”(2015)のMy TUBEっぽい。
ここ数作はTUBEの先輩格に当たる大物アレンジャーをどんどん起用してきたので、その影響を持ち帰った上でTUBEとして自分たちの中でどう消化し、どういう方向に進むかというのを新譜に期待していたんですよ。
なのに“SUMMER ADDICTION”(2012)から2年音無し【泣】 『RIDE ON SUMMER』(2016)はどっちかといえば“Your TUBE”っぽさがあった分、ようやくこのアルバムで店主からの勝手な問いに答えを投げかけてくれたかなと感じました。

     ♪ 愛はメリーゴーランド

TUBEのアルバムには欠かせないラテンナンバー。イントロを耳にした瞬間から「待ってました!」といいつつ、1番のサビより前まではホーンやパーカッションといったラテン要素アゲアゲの音は控えめ、『恋してムーチョ』や『情熱』などのラテン全開ナンバーというよりは、シティポップにラテンテイストをまぶしたような爽やかな仕上がり。その方が6曲しかない分、アルバム内で浮かないかな。

     ♪ VICTORY

TUBEといえば「前田作詞・春畑作曲」がほとんどですけど、2000年代以降はアルバムの中に角野・松本作詞が1本づつほど入っていたりします。特にリョージは、古くは『SURF SONG』(1991“湘南”)、『Fujisawa Sunlight』(2003“OASIS”)など飾り気のない言葉の選び方が良いアクセントになっているなと。なのでこういうストレートなロックチューンとは相性最高。冒頭のレーシングカーの効果音から始まり、レーサー・リョージ全開です【笑】 歌詞そのものはTUBE定番のいわゆる『ガンバレ系』ですが、それを次のカーブの先など わからないけれどチェッカーフラッグ 君を待ってる」など、全編カーレースの言葉で貫いてるのがさすが。
そんな中でも堪能してほしいのは、ストレートな曲にぴったりの前田さんの伸びやかな声! すでに数年前にデモテープが出来ていたそうですが、この曲は今の声で出すべきだったと実感できます。手術前までは、無理してテクニックで気合で出していたのかもしれない声が、今はとても楽に出せていると聴いていて感じます。そしてもちろんパワーも。50代になってさらに磨きのかかった前田ヴォイスに聴き惚れてくださいませw

     ♪ f

familyのf、friendのf、foreverのf。fanのfも入るのかなと思ったけど、ファンはTUBEにとってはもはやファミリーかw 小さい頃から辛いとき哀しいときは友達に救われてきたという前田さん。詞の中で歌われている友情は、まずはTUBEのメンバーや支えてくれるスタッフやファンなんだろうけど、もしかしたら彼らと出逢う前からの友達なども含まれるのかな、なんて思ったり。そういう意味でアルバムジャケットと一番世界観の近い曲。
Promise―遠い未来―』(1999“Blue Reef”)を思わせる哀愁を帯びたアコースティックなナンバーですが、サビのコーラスが敢えて声が揃ってない、ちょっとざらっとした感じで入っているのは、TUBEとしての4人、その4人の”個”の集まりとしてのTUBEを聴かせたいのかなと勘繰ってみたり。

     ♪ スタートライン

長年TUBEのアルバムを聴き続けてきて見つけた法則の一つが「ラスト前に名曲あり」。“Bravo”(1997)から”Blue Reef”(1999)あたりはバラード+1曲の“二段ラスト”なアルバムでしたがその場合はバラードの前、割りとずっしりとした力作はこの辺が定位置になるのかなと。古くは『Lonely Revolution』(1988“Remember Me”)、『Teenage War(1992“納涼”)、最近では『空と海があるように』(2010/2011“Re-Creation”)もそうだし、同じミニアルバムでは『Remember Summer』(1992“Smile”)も。これで作詞・作曲ハルとなると期待せずにはいられないじゃないですか!
イントロのキラキラとした透明感あるギターとシンセには『Go Ready Go』(1988“Beach Time)と相通じるものを感じましたが、歌詞では一転して25年前のハルを封印。短い、凝縮された歌詞が曲に乗った瞬間に爆発的に広がる、ってのが“ハル・ハル”曲の歌詞の醍醐味だったんですが、今回は敢えてリアルを追及。甲子園の夢を追い続けてきた我が子への思いを長々と綴った手紙を、前ちゃんと一緒に縮めていって歌詞にした、というエピソードはここでは触れるまでもないのかもしれませんが。
けど、その背景に思いを馳せるとTUBEの32年の長さっていうのをまざまざと実感させられてしまいます。
「諦めなければ夢は叶う」と歌っていた若者が親になって、その子供がさらに夢を追って、そして夢に破れてまたそこから……ってすでに1周以上してるような【苦笑】 でも、そんな父親目線の言葉を乗せたメロディは今も変わらぬキラキラを保ち続けている。もうメンバー全員50の大台に乗りましたが、それは何かを失ったわけではなくて、20代からのものを持ち続けた上で新たに“50代”を手に入れたということ。これからも彼らは今までと変わらず、それ以上に輝き続けてくれることでしょう。

     ♪ My sunny day

いわば、↑な彼ら自身の現在地、というのがこの曲でしょうか。
レゲエっぽいというか、明るくノリのいい感じは(春畑氏曰く「今までではあまりなかった曲調」ですが)TUBEらしいんですが、歌詞は曇りだけが続く天気【苦笑】 でも一歩踏み出せばそこには晴れ渡る青空が、素直な自分が待ってる。それでこそTUBEw
バラードではなくアップチューン締めですか、ラストにはオーディエンス参加のコーラス付き。そうやってスケールがどんどん広がっていくエンディングはアルバム全体を締めくくるにも相応しいものに。もちろんこのミニアルバム自体、90年代の2枚と同様にライヴに向けて出されたもの。やっぱりこういう観客と一体となれる歌はライヴの一番の楽しみですからね。当然、ホールツアーでも大いに盛り上がりましたので野外でも、そして来年以降のツアーでも聴ければ、歌えればいいなぁ。


アルバム全体を通しての感想は、まずやっぱり前田さんの声! ほんといい声になりました♪
たまたま2015,16年のシングルと併せて聴いていたんですが、手術前は聴き比べると、どうしてもハスキーさが目立ってしまう。確かにそれも味ではあるんですが、今の声を聴いてしまうと、ね。
TUBEの正装であるジーンズで喩えると、それまでのが程よく色落ちしたストーンウォッシュだとしたら、今の前田さんの声はインディゴブルーも鮮やかなワンウォッシュ。本当にヒビが少なくなったなと。もちろん第一印象は変わらず夏の前田ヴォイスなんですけどねw
それが凄くスムーズに力まず声が出ている感じ。『RIDE ON SUMMER』だとまだ怖々な印象が否めなかったけど、昨年はフェスを含め5ステージだけでしたがそれが自信になったんでしょうね。
でもここまでの回復ぶりなら、今の前田さんの“全力投球”を聴いてみたい、というのは正直な本音。というのも、このアルバムではそこまで声を張り上げるような曲ってそんなに無いので。けど――曲はあくまでライヴで歌ってなんぼ、というTUBEにとっては、そういう曲はもう十二分にあるからOKなんでしょうね。むしろ、こういうさらりと歌える曲が無かったからこそ今回作ったようなものかもしれませんし。

そして歌詞。音楽についてド素人の店主が唯一自信を持って語れる部分ですが【苦笑】アルバム全体を通して語られているのは「一歩を踏み出す」こと、そしてそれを見守る視点。それが最も顕著に表れているのがノンフィクションな『スタートライン』ですけど、それ以外の曲でも言えること。というかそれしか言っていない【爆】
実は、ラヴソングは『愛はメリーゴーランド』だけですもん。ラテンとなるとどうしても男と女のあれやこれやになってしまいがちですが、一行だけ切り取るとすれば最後のリフレインの前の1フレーズ、ここだけエフェクトのかかった
   旅立ちの朝焼けに君は
この曲ってTUBEラテンの大多数と同じように女性目線なんですが、ここだけ二人称が男性目線でよく使う「君」。エフェクトがかかっている点からも、ここだけは別目線と解釈してもいいんじゃないでしょうか。つまり、メリーゴーラウンドみたいな恋の堂々巡りに気づいていても、ヒロインはそこから一歩踏み出そうとしているのかもしれない。そう考えればアルバム全体の仲間外れにはならなさそうなw
齢が齢だけに【泣笑】フルアルバムでもラヴソング比率は年々低下してますが、ここまでばっさりというのも英断かと。でも、それで結果として恋愛真っ最中の若い衆や、ノスタルジーを共有できる同世代のみならず広い層に訴え、そして共感できるアルバムになったんじゃないでしょうか。実際、店主も聴いていてあまり疎外感を感じませんでしたし(そこまで今はやさぐれたり心が弱ったりしてないだけかもしれませんが;笑)まぁ、もっとも“Smile”“Say Hello”に肩を並べるかというと……評価はもっと先の夏でしょうけどねw


Coming out!