勝手に!Liner-Notes
〜Pradiso〜


記念すべきTUBE30枚目のオリジナルアルバム“Paradiso”。
今までレゲエ、ラテン、ハワイアンなど行く先々の音楽を、良く言えば貪欲に吸収、悪く言ってしまえば影響を受けまくりのTUBEですが、今回は前田&春畑コンビが初(!)のヨーロッパ・地中海地域に行ってきたというわけでまたも現地の音楽、特にフラメンコに代表されるスパニッシュ・テイストが前面に押し出された――と思いきや、実は店主の印象では、今回のアルバムの根幹を支えているのは80年代的ポップの王道なのではないでしょうか?といっても80年代当時、まだ物心ついたかつかないかの店主なのであくまでイメージですが、特徴を挙げるとすれば予想を裏切らないメロディラインそれをひたすら盛り上げるフィルイン、そしてきらきらとゴージャスなシンセサウンド、といったところでしょう。
そんな新鮮な、しかしどこか懐かしいサウンドを作り出したのは、今回最多参加の外部アレンジャー陣12曲中7曲というのだから、外部アレンジャーが本格的に加わりはじめた2000年以降で最も多い数字のはず。彼らの名前に注目して聴いてみると、意外な発見があるかもw

一方で詞の世界観としましては、タイトルが「Paradiso=楽園」とあるものの、題名どおりの楽園サウンドから垣間見えるのはむしろ仕事、家庭、悩む日々に呑みこまれて週明けの戦場に連れ戻されるまでといった現実。影があるからこそ光がある、というようにこういった過酷な現実があるからこそ楽園が存在しうる、というパラドックスなのでしょうか、このアルバムが全曲を通して伝えたいことは。

♪ Paradiso〜愛の迷宮〜

いきなりのフラメンコ的なガットギターの響きから、『情熱』ばりのベタラテンかと思いきや、むしろ『Let's go to the sea〜OASIS』や『ジラされて熱帯』といった感じのイケイケなノリ。スパニッシュ・テイストはほんのアクセント、ベースとなっているのは実は王道ポップス、というこのアルバムのサウンドのお手本のような曲です。
編曲は大島こうすけ、『〜OASIS』や『Miracle Game』といった近年のTUBEアゲアゲ系には欠かせないアレンジャーさんではないでしょうか。ああ道理で【笑】

♪ 夏の魔法(Magic)

どの辺がラテンかというと、サンタナもかくやという泣きのギター。ああ、だからMagicなのね【爆】だが同じ泣きのギターといっても『だって夏じゃない』のようなコテコテべったりという感じではなく、風通しのいいサウンドになっているのはやはりアルバム全曲を通して使われてるガットギターのおかげなのでしょうか。
そんな熱さはあるけどさわやかな、イメージ的には避暑地を思わせる曲調に乗せられているのはやはりリゾートテイストな歌詞、というよりケダモノみたいな本能 遠い記憶さ干からびてしまってる日常といったような、どこかリアリスティックな、等身大な世界。それもある意味ミスマッチの妙でしょうね。
アレンジは徳永暁人。最近のBeing系ではすっかりおなじみの名前ですね。TUBEでは『I'm in love with you, good day sunshine』、『青いメロディー』に参加。

♪ Te quiero(テ・キエロ)

Paradiso〜愛の迷宮』のカップリング曲。やはりポップの骨組×ラテンの色づけな、似たようなテイストの曲を1枚に入れたもんだと思いましたが、こっちの方がよりお遊び色は強いかな。だって火傷する熱いEscargotですもん!店主の場合、曲に映像をあれこれ重ね合わせるような聴き方をしてますが、一体どういう画を重ね合わせればいいんでしょうか・・・。言葉遊び、というものを突き抜けてナンセンスの領域に入っているような【爆】

♪   蛍

昨夏の野外ライヴでの初披露以来ファンの間で静かな感動を呼び、いよいよ今年、満を持してシングルカットされた“名曲”です。どのくらい満を持してかというと、今年のホールツアーはファンによるリクエストの上位曲で構成するという趣向だったんですが、そのときまだ発売されてなかった『蛍』がベスト20に食い込むほど!未だ野外と冬ごめでしか歌われてきませんでしたが、それでも強い印象をオーディエンスに与えたことは間違いないです。店主だって横スタで初めて聴いたとき、久々にぞくぞくきましたもの。ああ、これは10年に一度の名曲だって。日頃売り上げにはさほど興味を示さない店主もこの曲ばかりは売れてほしい、TUBEファン以外の人にもたくさん聴いてほしいと思いました。でもその割には振るわなかったのが残念でしたけどね(なんとかしろよソニー&事務所!)
今回、シングルカットのために再アレンジ。“Paradiso”の全体のテイストに合わせてガットギターとピアノ、ストリングスなどを加えた豪華ヴァージョンに仕上がりました、が、店主はライヴver.の方が好きですね、いかにもTUBEらしくって。
編曲には(今回のアルバムver.だけかな?)もうすっかりサポメンでおなじみのリュータこと吉村龍太が加わってます。実はアレンジは初でしょうか?

♪ Glory Days

やはり初聴きで惚れました。イントロのパーカッションで「これは店主の好みかな?」と感じ、ブラス(っぽいシンセ)で「絶対店主の好きそうな曲だ!」と確信を深め、そしてのっけからのDon't stop the glory days!でヤラれました【笑】まさしくCarnivalesque、という形容詞がよく似合うサウンド。Aメロ、Bメロと次第にサビに向けて盛り上がっていくさまなんてまさに王道じゃないっすか!
でも歌詞はそんな能天気というわけでなく上司の顔色次第の天気予報というように現実を引きずったイメージ。だからこそ『楽園』というのが必要とされているわけだし、その陽気なイメージが寄り引き立ってくるんじゃないでしょうか。
アレンジは佐藤晶。“B☆B☆Q”に続いてマニピュレーターとしても参加。編曲としても『誰のせいでもない』('03“OASIS”)『ともだち』('05“TUBE”)といった、どちらかといえばしっとり系を手掛けてますが、特筆すべきはNOB Summer『Can't take my eyes off of you』('02“good day sunshine”)に『Aki Sugar』として加わってることでしょうか【笑】

♪ オラシオン〜君に恋した夏〜

「オラシオン」とはスペイン語で「祈り」という意味だそうですが(馬の映画を思い出してしまうあたり店主も古いな:爆)ガットギター×リズムはレゲエ、というここはスペインなんだかジャマイカなんだか【笑】でもハワイアン×レゲエ(ジャマイカ)=ジャワイヤン、ってのもありますしね。
決して悲しい恋の歌でもないのにどこか切ないのは、哀愁漂うメロディのせいでしょうか。TUBE王道のミスマッチといえば「前向きなメロディ×切な系の歌詞」ですが、これはその逆ヴァージョンといった趣き。

♪ Darling Darling

イントロからしてちょっと大人っぽい感じの曲かな、と思いきやヒロインの「私」が可愛らしいの!『好き』がどしゃ降りよとか手の平の上 転がされてるみたいねや、シメの「大好きなんてまさに少女マンガの世界じゃないっすか!
ただジェンダー系として突っ込みたくなるのは、TUBEの女歌でここまで素直なヒロインが出てきたのは初めてじゃないでしょうか?『さよならイエスタデイ』でも『Truth of Time』でもどこかすれっからしな感じで、素直になりたい、でもなれないという女性像だったんですが・・・って女歌自体久しぶりですね。『はぐれ雲』('02“good day sunshine”)以来だわ、やはりすれっからしの。
都会的なムードが漂いながらも、やはり軽快なリズムはさすがアレンジ・大島こうすけ。

♪ カサブランカ

タイトルからして環地中海的なんですが、百合の花の方のイメージですか。ガットギターメインの、アコースティックなしっとりした感じの曲なんですが、なぜか80年代ポップを突き抜けて歌謡曲的な懐かしさを感じるのはなぜなんでしょうか?

♪ 妄想MAN DEBUT

おそらくこのアルバムの中で一番の異色作。だって、パフ○ームばり【笑】のテクノポップなんだもの!TUBEの中でここまで人工的な匂いのする曲は『What'cha wanna do?』('01“Soul Surfin' Crew”)か『Seaside Vibration〜世界をつなげる扉ver.』(’05“TUBE”)ぐらいでしょうか。って実はアレンジは『Seaside Vivration』アルバムver.のDAY TRACK。
シニカル前田、『テ・ガ・ミ』('07“winter letter”)に引き続き炸裂です。ここで描かれている『楽園』とはズバリ妄想の世界。でもそこをあえて痛烈に批判しているわけでもなさそう。まぁこんな世知辛い世の中、妄想の一つや二つしてなきゃやってられないもの。え、店主にゃ身にしみる歌じゃないかって?いやいや、自分が主人公の妄想なんて全然してませんから。

♪ Alegria

最初の売り文句では「スパニッシュ・テイスト溢れる」はずだったのに全然そうじゃないしむしろサウンドはポップの王道だし、さっきなんて思いっきりテクノだったし、これでもう残り3曲かよといったところに

まだまだ 終われない

といきなり自分の内面を見透かされたようにガツンと来られたのは店主だけではないはず。というわけで、今までの物足りなさを払拭するようなベタラテンです。どのくらいベタかというと、『Bravo!』('97“Bravo!”)に匹敵するほどの。
ただ、あれほど能天気にサンバ炸裂というわけでなく月−金の戦闘服 詰め込んだスケジュール/みんな海の中沈めてというように、どこまでも現実はついてくる。この『楽園』だって週明けの戦場に連れ戻されるまでという期間限定にすぎない。だからこそ今は何もかも忘れて完全燃焼しようぜ!と。いくぶん刹那的かもしれません。でも、楽園しかない世界は楽園たりえない、というのがこの曲が、そしてこのアルバム全体が伝えたいテーマなのかもしれません。
アレンジは寺地秀行&窪田博之。『ナデシコ』('07“winter letter”)にもこのコンビで参加です。

♪ 忘却のシャドー

いくらまだ僕ら夢見ていい」「まだまだ終われないまだまだ、まだまだと悪あがきしたところで時間は残酷にもあの夏から過ぎ去ってしまっている。そして過ぎ去った時間は僕らを曇らせては 大人に変えていく。思えばこのアルバムはそんな「まだまだ」と「もう」が一曲ごとにせめぎ合っているのかもしれません。
そんな歌詞の悲痛さを中和しているのはボサノバの軽快な緩めのリズムと柔らかなフルートの音色。TUBE王道のミスマッチですね。

♪ Anniversary〜旅立ちの唄〜

確かに時間は僕らをあの夏から遠く引き離した。だけどあの夏と今を隔てる時間は決して無駄なものではない。なぜなら、僕らが重ねた時間は大切な宝物なのだから――
そう思えば、この曲は『忘却のシャドー』に、そしてアルバム全体に対する一種のアンサーであり救いなのかもしれません。過ぎ去った時間を否定するのでもなければ悲観するのでもなく、あくまで前向きに肯定する。だとしたらこの曲にとっての『楽園』は過去ではなく、これから「僕と君」が旅立つ未来なのかもしれません。
締めはやっぱりバラードでしょう!いわゆる『大バラード』の噴水が湧き出るような【笑】スケール感は無いですが、ライヴのラストを飾るにぴったりのしっとりとした曲です。


と、全体を通してレヴューしてきましたが、肝心の星は・・・

★★★★ 星4つ!

もちろん一曲ずつのクォリティも◎なのですが、全体の構成としてもいわゆる『TUBEの王道』という安全パイに逃げてないのが好感持てました。やはり20年以上続けていれば音的なヴォキャブラリーも次第に限られてしまうものかもしれません。だからといって外部アレンジャーに託すのも、今まで築いてきた『らしさ』が失われるというリスクもありますが、彼らは2000年以降、新たな『TUBEらしさ』をメンバーに、そして我々ファンに提示してきてくれました。そして今回のアルバムはその一つの集大成であると同時に、さらなる新たなTUBE像のプレゼンテーションなのではないでしょうか。
少なくともこの路線、好きですよ、店主は。


Coming out!