A Working Man 2

今回も冴子からの依頼。いつもながら、ややこしい事件を俺と海坊主に持ってきやがる。まあ、簡単に片付く事件なら、わざわざ俺達に頼まないか‥‥。


今、アパートの下に海坊主の車が止まった。さて、うちのお姫様たちに “ 行ってきます ” をしないとな。
と思っていたら、目の前に小さいお姫様がやって来た。

その小さいお姫様ってのは、うちの一人娘 真奈。1歳 10ヶ月だ。コイツは、香に似て美人で、笑った時なんて本当に香そっくりで可愛いんだ。これが。目に入れても痛くない、とは、よく言ったものだ。それに、俺に似て賢くて運動神経も抜群で、俺と香のいいところを全部受け継いでいるんだ。
もちろん、嫁になんぞ絶対にやらねえ。世の中の男なんてのは、みんなケダモノだ! そんなケダモノどもにうちの大事な娘はやれっか!

何? 俺が親バカだって?
俺は違う。それを言うなら、海坊主の方だ。あのヤローはデカイ図体して、娘にメロメロでやがる。まあ、百合ちゃんも美樹ちゃん似だからそれも解る気もするが‥‥、それより、タコに似ないでよかったぜ。女の子であれじゃあ可哀相だもんな。




「 ぱぱー。」

うちの真奈がニコニコしながら俺の足元まで来たから、俺はしゃがんで目線を合わせた。

「 タッチするか? 」

そう言って俺は左手の掌を真奈に向けた。すると、真奈が右手で俺の左掌を軽く、ぱしっと叩いた。より一層ニコニコする。コイツはこれが気に入ってるらしい。


その後、真奈は、両手を大きく上げて俺を見ている。

「 そうか、抱っこだな‥‥ 」

僚は、真奈を抱き上げた。

“ はあ‥‥。行きたくねえな。このまま、バックレるか。 今回の仕事は、海ちゃん一人で充分だろう‥‥ いや、そんなことしたら後で海ちゃんに殺される。やっぱり、ちゃんと仕事はしよう! うん。”

僚は気を取り直して、真奈を抱いたまま、香がいるキッチンに行った。



「 僚、海坊主さんと行く時間じゃないの? 」

「 ああ。海坊主が下に来ているから、コイツを頼むわ。」

「 うん。わかった。行ってらっしゃい。」

香は僚の腕から真奈を渡され抱き抱えると

「 じゃあ、行ってきますの ちゅう な。」

と言って、僚は香の唇に自分のそれと重ねた。

すると

「 ぱぱー。まあもーっ! 」

その光景を見ていた真奈が、ちょっと拗ねたように言った。

「 そうだな。真奈も 行ってきますのちゅう なっ! 」

と、真奈の頬に軽く ちゅっとした。

「 じゃあ、パパ お仕事に行ってくるから、おりこうさんにするんだぞぉー! 」

そう言って、僚と真奈は再びハイタッチをして、僚は家を出た。
 
 
 
 
「 待たせたな、海ちゃん。」

「 相変わらずルーズな奴だ。いつまで待たせやがる。 」

僚は海坊主の車に乗り込み、車はエンジン音とともに走り出した。


「 海ちゃん。今日は 15 分 で片付ける。 」

「 フンッ。お前が足を引っ張らなければすぐに終わることだ。 」

「 足を引っ張ってるのは、いつもタコの方だろが。 」

「 誰がお前の足を引っ張った? 冗談も休み休み言え。 」

「 それより、海ちゃ〜ん。バズーカに付いている白いのは何かな〜。なになに、ん? “ パパへ ” って、そっかぁ。 百合ちゃんからの手紙か? いや、クレヨンで絵が描いてあるぞ‥‥‥ ってか、これ海ちゃんじゃねぇか! 海ちゃんも、すっかり父親になったもんだ‥‥ 」

「 うるせー、それは父の日に保育園で百合が描いてくれたんだ。お前こそ、パイソンのグリップの裏に貼ってるのは、何だ? どれどれ‥‥ 香と真奈のプリクラじゃねーか! お前も人の事、言えんだろうが! 」

「 おい、タコ坊主、勝手に見るんじゃねえよ! 」

「 そんなとこにプリクラを貼ってるお前が悪い。 」

「 お前の方こそうるせーよ! それより、タコ! 前を向いて運転しやがれ! 事故ったらどうすんだよ! 」

「 俺は前なんか見なくても、運転出来るんだ! 」

「 てめえ、何ふざけたこと言ってやがる! タコが事故ったせいで死ぬのは、まっぴらだ! 」

現場に着くまで、この会話は続いていた‥‥。



2人は、今回の仕事も猛スピードで片付け、冴子が現場に到着するよりもずっと前に現場を立ち去り、それぞれ愛する者が待つ家に帰ったのは言うまでもない。
 
 
 
 
Fin
 


 
シリーズ 働くパパ (?)

僚×香の娘 : 真奈ちゃん 1歳 10 ヶ月
伊集院夫妻の娘 : 百合ちゃん 4歳
という設定になってます。

それにしても、ツッコミ所満載だな‥‥


in memoriam