そんな雨の日 |
|
新宿界隈では、ある親子連れの姿が毎日のように目撃される。
茶色のショートヘアに整った顔立ちの長身の女性、槇村 香。
「 ママ。今日は、えっくすわいぜっと あった? 」 真奈は伝言板の下の縁につかまり、一生懸命背伸びをして、“ XYZ ” の文字を探そうとしている。 「 今日も依頼はないわね‥‥。真奈、夕飯のお買い物して帰ろっか。 」 「 うん。」 真奈が母親の顔を見上げながら元気よく答えると、香は再び真奈の手を取り、伝言板を背に歩き始めた。
二人は帰り道、時間があることもあり、デパートに寄ることにした。 “ 真奈に買ってあげようかな。梅雨の時期に雨具は必要だし、この前の依頼料で 少し余裕もあるし、いいわよね。 ” そう考えて、香と真奈は、ピンクの花柄のレインコートとお揃いの傘、それと、 プ〇キュアの絵がついてるピンクの長靴を買うことにした。
真奈は、よほど気に入ったのか、家に帰ってからも、嬉しさのあまり家の中でも レインコートを着て、はしゃいでいた。 「 バパ、見て見てー! 」 ソファーに寝そべりいつもの愛読書を見ている僚の前で、真奈はクルクル回ったりと、その晴れ姿 (?) を披露している。 「 雨ふったら、お出かけするの! 」 そう言って突然姿を消し、戻って来たかと思えば 「 ほらー! これもこれも、真奈ちゃんの! 」 今度は玄関から傘と長靴を持ってきてリビングの床に並べる。 「 今から出かけるぞ! おまぁ、それ持って玄関で待ってろ。」 「 うんっ。」 真奈は、父親の言葉に目を輝かせながら返事をすると、床に置いていた傘と長靴を拾い玄関に走って行った。僚は、キッチンで夕食の準備をする香のもとに行き 「 香、今からアイツと出掛けて来るわ。」 「 えっ? 今からって、もうすぐご飯出来るのよ。」 「 なーに、すぐに帰ってくるさ。じゃあ。」 「 じゃあ、って、別に今日じゃなくても‥‥ 」 と言った時には、僚の姿はすでになく、アパートの下では、僚が真奈に手を引っ張られ歩いていた。 「 おまぁ、どこに行きたい? 」 「 伝言板! 」 “ 伝言板って、おい。何だよそれ? 普通、お菓子屋さんとか おもちゃ屋さん とか言わねーか? ったく誰に似たんだか、仕事熱心だよな。ま、俺に似るよりま しか‥‥” 二人がは新宿駅東口の伝言板の所に着くと、真奈は伝言板の縁を掴み、背伸びを している。 「 パパ、えっくすわいぜっと ある ?」 僚は伝言板が見えるように、真奈を抱き上げた。 「 XYZ あったか? 」 「 う〜ん 」 真奈は首を傾げている。実際に伝言板に依頼はないのだが、真奈にはまだ “ XYZ ” がわからないのである。 「 今日も、XYZ はないみたいだぞ。じゃあ帰るか。ママがご飯作って待ってるし な。」 「 うん。明日は、えっくすわいぜっと あるといいね!」 「 そうだな。」 僚は抱き上げていた娘を下におろすと、人混みで溢れる構内を出た。 「 やっぱり、降ってきたか‥‥ 」 僚の予想通り、雨が降り出してきた。僚の横で、真奈は大喜びしている。 “ たはは‥‥コイツは準備万端だが、俺は慌てて持って来なかったんだよな。” 僚は困惑した表情で、空を見上げていると、隣で傘をさした真奈が一生懸命に背伸びをしている。 「 どうしたんだ? 」 「 パパ、持ってないの? 真奈ちゃん、入れてあげる。」 そう言って、真奈は傘を持つ手を上に伸ばして、僚の頭の上に傘を持っていった 。 「 ありがとな。 」 僚は真奈の頭をくしゃっとなでると、真奈は母親譲りの屈託のない笑顔を見せた 。 “ それにしても、天下のシティーハンターがピンクの花柄の傘ってゆーのは、ど ーなんだ‥‥‥まあ、うちの小さいお姫様の好意だもんな。これでよしとしよう 。” 僚は心の中で自分を納得させ、傘をさしたままの娘を左腕で抱き上げて、帰路に ついた。
「 ちょっとアンタ、何やってたのよ。」 小さな子供用の傘に二人も入れる訳がなく、家に着いた時には、びしょ濡れにな っていた。 「 コイツの仕事、手伝ってきた。」 「 仕事ってどういうこと? 」 「 ママ、えっくすわいぜっと なかったよ。 」 真奈が香の顔を見上げ満面の笑みで答えると、それをフォローするように僚が言う。 「 二人で伝言板見てきたが、依頼はなかった。ということだ。誰に似たんだか、 この仕事熱心さは‥‥。 」 ずぶ濡れになった父親と娘、呆れながらも娘の身体をタオルで拭く母親。 そんな雨の日の冴羽家の一風景だった。 Fin みみこさまから可愛らしい梅雨時の冴羽家の光景を頂きました!
|